2010年11月01日 12:00 〜 14:00 10階ホール
鈴木章・北海道大学名誉教授

会見メモ

ノーベル化学賞受賞が決定した鈴木章・北大名誉教授が昼食会で、クロスカップリングの研究やみずからの半生を語り、科学研究や若者への期待を述べた。

鈴木章教授は研究生活を振り返り「セレンディピティ」の重要性について「大きな発見は偶然からもたらされる。チャンスはだれにでも平等にある。チャンスをいかに生かすかは、いかに注意深く、努力して、謙虚に考えるかだ。努力がなければ、幸運の女神がほほ笑むことはない」と述べた。自分の経験を語るなかで、大学教養部学生の時、英語の有機化学教科書を読み、専攻を数学から有機化学に変えたことや、助教授時代に米パデュー大学ブラウン教授の著作を徹夜して読み、ブラウン教授に「勉強したい」と手紙を書いたことを紹介。「あの二つの本を読まなかったら、いまの立場は変わっていたかもしれない」と人生の転機だったと語った。

また、現代の日本の若者の理系離れや、留学しない傾向について「シリアスで放っておけない問題だ。資源のない日本は、工夫して新しいものを作り世界中に買ってもらうしかない」「若い人が外国に行くのは非常にいいことだ。友達ができるし、知らない世界を知る。語学を覚え、専門の勉強もできる。ぜひ勧めたい」と話した。「挫折したことは」との最後の質問に「やけっぱちになることはなかった。学生とは酒を飲んだけれど、やけ酒はない。ラッキーな人間であることの証明かもしれない。まあワイフに聞いていただければ」と答え、笑いを誘った。

司会 日本記者クラブ理事 高橋純二(北海道新聞)
代表質問 日本記者クラブ企画委員 橋本五郎(読売新聞)

北海道大学ホームページの「鈴木章名誉教授ノーベル賞決定」のサイト

http://www.hokudai.ac.jp/bureau/topics/nobel/nobel_suzuki.html

ノーベル賞ホームページの化学賞のサイト(英語)

http://nobelprize.org/nobel_prizes/chemistry/laureates/2010/


会見リポート

謙虚な精神と自由なこころ

小出 重幸 (読売新聞編集委員)

「10月6日夕方から、人生が変わってしまった」

炭素結合を安定して 作り出すクロスカップリング反応は、私たちも今年の受賞候補として準備していたが、これに関わった研究者は数多く、日本の有機化学者だけでも数人の名前が あがる。6日の発表でスウェーデン王立科学アカデミーが選んだ3人の受賞枠は、結局1人の米国人と、日本での知名度は低かったが、応用に直結する成果をあ げた鈴木章、根岸英一両博士だった。それだけに受賞者の驚きと喜びも、ひとしおだったろう。

世の中には「カメノコ(ベンゼン環)」と聞い ただけで拒絶反応を起こす人たちも多いが、「私たちの身の回りは炭素が結びついた物質でできている。その仕掛けを読み取り、新たな反応を導き出す。化学は 創造の楽しみです」という世界観には、共感できる人たちも多いのではないか。

最近、飲み始めた血圧降下剤の製造には「鈴木先生のクロスカップリング反応が使われています」と薬剤師に教えられ、「世の中に役立つ仕事ができてよかった」と実感。そして、資源の少ない日本が生き延びるために、常に新たな技術や価値を供給し続けることが不可欠だと説く。

「科学と教育は、成果が出るまでに長期間が必要。(ノーベル賞など)いまの成果は、明治以来の政府の温かい心が育み、ようやく花開いたもので、行政には大きく長期的な視点を持ってほしい」

研究と創造の第一線には、努力と共に「謙虚な精神と自由なこころが不可欠」といい、若い人たちには「一度、日本を出て、外から眺めるよう」、声をかけ続けている。


ゲスト / Guest

  • 鈴木章 / Akira SUZUKI

    日本 / Japan

    北海道大学名誉教授 / Professor Emeritus, Hokkaido University

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