2010年07月15日 00:00 〜 00:00
小野善康・大阪大学教授

会見メモ

菅直人首相に経済政策をアドバイスしている小野善康・大阪大学教授が、シリーズ研究会「カンジアン」②で、「構造改革とケインズ­政策を越えて:第三の道とは」と題し、小野理論にもとづく経済政策の「第三の道」を語った。

小野善康教授のホームページ
http://www.iser.osaka-u.ac.jp/~ono/index.html

「日本は不況になって成熟社会になった」
小野教授は議論の出発点としてまず、「発展途上社会」と「成熟社会」を区別した。発展途上社会では、ほしいものが山のようにあり­、生産力を増やすため人々はモーレツ社員として働き、努力が報われる社会だった。いまの中国やインドもこのステージにある。成熟­社会になると、新たにほしいものがなく、飽食となり、生産力は十分で需要不足となる。モノはいらないがカネはほしいので、株・土­地がバブルとなる。失業が増え、賃金が下がり、貨幣価値が上がり、デフレ=カネのバブルとなる。いまの日本がこの成熟社会であり­、「需要を作る」ことで、すべての問題が解決する、と主張した。
次いで、経済政策に入り、「失業が最大の問題であり、民間部門が失業を解決しないのなら政府がやればいい」と述べた。「大きな政­府」(ケインズ主義)と「小さな政府」(市場主義、構造改革)について、穴を掘って埋める仕事に100万円払う前者と、失業者に­100万円配る後者は「同じ」と断言。「第三の道」として失業に対し政府が仕事を作ることを提唱、「雇用を作れば解決する」と詳­しく説明した。政府事業の条件は「生活の質の向上」と「自立できない事業への支援」であり、環境・介護・健康・教育・芸術・観光­と数え上げた。増税も雇用のためならいい。
最後に再分配政策に触れ「成熟社会とは知的でなければならない。知的に枯れるとカネだけに集中することになる」と持論を展開した­。
司会:小此木潔・日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

持論を熱弁 ケインズを越えて

山下 郁雄 (日刊工業新聞論説委員長)

今、日本で最も注目される経済学者は誰か。答えはもちろん大阪大学の小野善康教授。内閣府参与で菅直人首相の経済政策のブレーンを務める、まさに“時の人”だ。一体どんな先生なのだろうと興味津々、会場に赴いた。印象は、学者くささがなく、ざっくばらんな語り口の親しみやすいおじさん、といったところ。

会見では「増税しても経済成長を損なわない」「大きな政府か小さな政府かの問題は、どちらでも大差ない」「生産性を高める前に需要を増やさなければならない」など“小野理論”と呼ばれる持論を熱っぽく語った。

自ら「新古典派でもケインジアンでもない新境地を開いた」とする小野理論は『需要不足が恒常化する成熟社会を迎えた』→『需要不足は企業の利益不足となり失業を生む』→『政府事業による雇用創出がデフレギャップを解消、消費を刺激し経済拡大につながる』とのロジックを基本とする。そのなかで鍵を握る政府事業に関しては、民業圧迫を避ける意味から、民間がやっても儲からない分野、必需品以外が望ましいとし、福祉・介護や環境関連を例示した。

小野理論は今の経済学の主流ではない。そのため、同理論に対し「増税は消費を冷え込ませる」「短期政策としてはよくても、長期では生産性が低下し経済は回復しない」「政府は使い道を間違える。成長産業を知らない」「生産性を上げないと国際競争に負ける」などの異が唱えられている。それぞれに対し小野教授は「消費が冷えるは誤解」「短期が20年以上続き、まだ続く」「成熟社会にそもそも成長産業などない。失業放置より何かやるべき」「生産・供給力を高めると円高を招くだけ。需要力競争が円安を呼ぶ」と反論した。

「菅政権が日本経済を回復させたら、小野先生はノーベル賞ですね」。会見での司会者の弁が揶揄で終わらず、未来の予言となれば、それに勝ることはないのだが…。


ゲスト / Guest

  • 小野善康 / Yoshiyasu KONO

    日本 / Japan

    大阪大学教授 / Professor of Osaka University

研究テーマ:カンジアン

ページのTOPへ