2009年09月18日 00:00 〜 00:00
清水学・帝京大学教授

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会見リポート

カシミールから見たアフガン問題

栢 俊彦 (日本経済新聞編集委員)

近年、米国を中心に「アフガニスタンのテロ問題はパキスタン問題と一体で解決を目指すべきだ」との見方が増えている。イスラム教原理主義集団のタリバンは国境を越えてパキスタン領内に多数逃げ込んでいるから、同国領内でもテロ掃討作戦を展開しないと効果が乏しいとの主張だ。

清水教授はこれに異論を唱える。パキスタンをアフガン対策の付属物と見るのではなく、パキスタンにとっての戦略的優先順位がどこにあるかに目を向けろと言う。

すると景色は変わってくる。パキスタンはインドとの間でカシミールを巡る領土紛争を抱えている。パキスタンにとっては対インド関係こそが第一の課題で、アフガンの方が従属物となる。インドとの新たな紛争に備えるため、パキスタンは後背地であるアフガンに親パキスタン政権が欲しかった。だから同国の軍部はタリバンを自ら育てた──。

こうした事情を知っていると、9・11事件以降、米国がパキスタンに突きつけた「アフガン対策の前線基地になれ」との要求がいかに厳しいか、パキスタン国内の政治情勢がなぜ混迷の度を深めているかが分かる。

パキスタンは自国内のタリバン居住地域に手を出せない。それどころか、最近では同地域のタリバンがパキスタン政権を攻撃目標にし始めたのではないか、と教授は危惧する。

オバマ米大統領が危機対策の力点をイラクからアフガンに移すと言いながら、具体策がなかなか見えてこない理由もこの辺にうかがえる。

それにしても、ユーラシアはやはり地続きだと感じる。タリバンを含むアフガンの主要民族パシュトゥン人が2つの国にまたがって住んでいる事実は、19世紀に決めた国境線のいい加減さを物語るとともに、日本人にとってこの地域を理解する難しさを示している。
 

ゲスト / Guest

  • 清水学 / Manabu SHIMIZU

    日本 / Japan

    帝京大学教授 / Professor, Teikyo University

研究テーマ:ユーラシア

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