2009年05月15日 00:00 〜 00:00
佐野眞一・作家

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会見リポート

編集者の劣化を憂う

原田 亮介 (日本経済新聞東京本社編集局次長)

企画委員会では雑誌メディアで最近相次いだ不祥事を踏まえ、新たな研究会をスタートした。報道はなぜ揺れるのか。

「どぶに落ちた犬を救い上げてタオルでぬぐってやっていると思っているのに…」。佐野さんは冒頭から新潮社の対応に無念さを隠そうとしなかった。朝日新聞阪神支局襲撃事件を巡る週刊新潮の「虚報」。佐野さんは自らも雑誌を舞台に綿密な取材で労作をものしてきただけに、誤った記事がチェックを素通りして掲載された経緯に深い疑問を抱いている。自らの手でなぜ暴走したのかの真相を明らかにしたい、とキッパリと語った。奈良の少年事件を扱った『僕はパパを殺すことにした』(講談社刊)でも、供述調書を直接引用しないと約束しながらそれを反故にし、取材源として秘匿すべき情報提供者を法廷で明らかにした著者と、出版元を厳しく批判。「人を見抜く心眼がない。編集者の劣化だ」と話した。

雑誌業界では総合誌や論壇誌の休刊が相次いでいる。フリーのライターは仕事の舞台がどんどん失われている。「ふるさとに帰って家業を継ぐ」と廃業宣言をする人も多いと聞く。そんな折だけに出版社側が読者の信頼を裏切るという行為はとても見過ごすわけにいかないのだろう。雑誌『世界』への寄稿にはこうある。「経済的に恵まれないなかで地を這うように取材し続けている人たちは世間にどんな顔向けをしたらいいのか。著者と版元はまず真剣にノンフィクションの仕事に取り組んでいる人たちに謝ってほしい」

講演後、会場から「編集者が劣化しているというが、どう記者を教育すべきか」という質問が出た。佐野さんは「言葉が出なくなるような、例えば子どもを亡くした母親が泣き叫ぶような『現場』を体験させること。金魚のフンのような総理番をやらせていたら記者はすぐダメになる」と答えた。耳の痛い警句である。

ゲスト / Guest

  • 佐野眞一 / Shinichi SANO

    日本 / Japan

    作家 / Writer

研究テーマ:雑誌・ネット・報道

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