2009年03月19日 00:00 〜 00:00
レザー・アスラン・カリフォルニア大学助教

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会見リポート

急速に進むイスラムの個人化

脇 祐三 (日本経済新聞論説副委員長)

「中東研究会」と「著者と語る」を兼ねた1時間40分だった。ゲストのアスラン氏は1972年、テヘラン生まれ。イラン革命で家族とともに故国を去り、米国で育った。内側と外側の双方の視点からイスラム世界を語る気鋭の論客だ。約1400年前の勃興期から9・11後までの変遷を描いた著作の邦訳『変わるイスラーム』も刊行されたばかりである。

中東政治論の論旨は明快だ。「過激なイデオロギーの勢力も政治に参加することで穏健になり得る」「デモクラシーの基礎は世俗主義ではなく多元主義であるべきだ」「イスラム勢力の政治参加こそ地域の安定に重要」。パレスチナのハマスやレバノンのヒズボラを、脅威と見なして排斥してきた、米国の中東外交への痛烈な皮肉だろう。

イラン革命30年への評価も辛い。「中東の中では比較的公正な選挙をしてきたが、選挙を経ない影の政府が実権を握る悪しきデモクラシーだ」と言う。そして、「米国のイラン孤立化政策が結果的にウラマー(イスラム法学者)による専制の構造を支えた」と付け加えた。

そのイランにも変化が起き、識字率は女性でも9割に達する。識字率上昇とインターネットの浸透は、イスラム世界全体を変えつつある。「かつて若者は最寄りのモスクの指導者にイスラム法の解釈と行動の是非を尋ねたが、今ではサイバースペースに流布する多様なファトワー(宗教的判断)の中から自分にフィットする解釈を選ぶようになった」からだ。

ウラマーによる解釈の独占が崩れ、イスラムが急速に個人化していることが重要な変化だとアスラン氏は力説する。既存の宗教権威が崩れ、神学校出身でないウサマ・ビンラーディンまで自らファトワーを発表し、一部で強い支持を得ている。

こうした変化をイスラムに訪れた宗教改革の一断面と位置付ける解説には、斬新な響きがあった。

ゲスト / Guest

  • レザー・アスラン / Reza Aslan

    アメリカ合衆国 / USA

    カリフォルニア大学助教 / Assistant Professor, University of California

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