2008年06月05日 00:00 〜 00:00
アブドゥッラー・ギュル・トルコ大統領

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会見リポート

“世俗主義”を強調

脇 祐三 (日本経済新聞論説副委員長兼編集委員)

トルコ東部のカイセリは多くの財閥の創始者を生んだ商業の町であり、新しい工業団地にも巨大なモスクがそびえるイスラム信仰のあつい町だ。カイセリ出身の大統領は、親イスラムの公正発展党(AKP)単独政権誕生の立役者の一人である。そして、記者会見で読み上げた声明の多くの部分は、投資対象の広がりなどトルコの経済発展のPRに充てた。

「トルコは世俗主義の国」。大統領はこのメッセージも繰り返した。世俗主義の守護者を自任する軍や司法とAKP政権の間で深刻な確執が続き、トルコの政局は波乱含み。国是としての世俗主義を強調したのは、対立がきわめて微妙な局面を迎えていたからだろう。

宗教意識の発露は、どの程度認められるのか。焦点の一つは、2月に憲法を修正して解禁した大学での女子学生のスカーフ着用だ。大統領は会見で「民主国家では時に激論が起きるのは自然なこと」と語った。その数時間後、トルコ憲法裁判所はスカーフ着用を認めたのは違憲との判断を下した。さらに憲法裁はAKP解党を命じるだろうとの報道も同日に相次いだ。緊迫した状況だったのに、大統領が笑みを絶やさなかったのが印象深い。

クルド問題では、かつてトルコ政府がイラクのクルド人指導者にトルコの外交官パスポートを供与して欧米との往来の便宜を図った逸話を紹介し、今はイラクのクルド地域の電力のほとんどをトルコから供給していると説明した。トルコとクルドを単純な対立の図式で見がちな外国メディアに、政治の現実を示した格好だ。イスラエル・シリア和平交渉を仲介した経緯の説明も含め、中東の現状理解に有益な会見であった。

ゲスト / Guest

  • アブドゥッラー・ギュル / Abdullah Gül

    トルコ / Turkey

    大統領 / President

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