2008年03月03日 00:00 〜 00:00
藤原智美・作家

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会見リポート

暴走老人は現代の“カナリア”

松永 太 (東京新聞出身)

芥川賞作家藤原氏の話術は、迫真力ある落語的やりとりで、早口ながら飽きさせない。本書を「家と家族についてのノンフィクションのひとまずの決着」(あとがき)と位置づけて、この日のスピーチは、時間(待つイライラ)、空間(鋭敏なテリトリー感覚)、言葉(情報化社会でのコミュニケーション欠落)の3つの視点から著書を紹介した。

インターネットで『暴走老人!』へのアクセスが2万ヒットに始まり、著者インタビューが出た後は2百万に跳ね上がった。版元文藝春秋の編集者は「売れる!」と期待したが、まだ10万部にとどまる。ベストセラーになったのは活字媒体の書評が出てからだそうだ。若者は「老人をたたく」「暴走老人から身を守る」という期待を裏切られたという。それでも読んでくれればいいが、2百万のネットアクセスに対し10万部の売れ行きは著者の期待を裏切る。

「卵の値段を知らない老人は暴走する」と笑わせてから説くのは、昔は卵を売る店では、一つ一つ紙袋に入れながら世間話が弾んだ。今はスーパーの棚からパック卵を取り出しレジで払う間、一言も会話はない。あるのはマニュアル化されたレジ係の応対だけ。そこで客が世間話どころか日常のあいさつでもしようものなら後ろに並んだ客がイライラし、時に暴発を招く。人間的かかわりが急速に変化してきていると分析する。

著者は書き物に3日専念すると4日目に言葉が出てこない。講演が多いとそのあとはペラペラしゃべりすぎる。つまり言葉は使わないとコミュニケーション力が落ちるという。現役の頃はバラエティーに富んだテクニックを駆使した老人が、リタイアしてから話すことが少なくなると、この力が落ちてゆく。炭鉱ではガスを検知するカナリアを提げて行ったが、イライラする暴走老人はこのカナリア役というのが結論だった。

ゲスト / Guest

  • 藤原智美 / Tomomi FUJIWARA

    日本 / Japan

    作家 / Writer

研究テーマ:著者と語る

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