2006年03月10日 00:00 〜 00:00
大沼保昭・東京大学大学院教授「憲法」7

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会見リポート

極論を排して中庸を探る

山田 孝男 (毎日新聞編集局次長)

大沼先生といえば「護憲的改憲論」である。改憲は不可避だが、日本国憲法の基本原理である平和主義を逸脱せず、「20世紀後半、実によく働いた現憲法を敬意をもって受け止め」、抑制的な改革にとどめるべきだという持論を拝聴した。

「私は改憲論だが、現政権と直近の政権の下で改憲すべきだとは思わない」というご発言があったので、理由をうかがうと「憲法問題や歴史認識について説明責任を果たす気がなく、内外に道義性を示し得ないから」という点を強調された。

憲法というものは、その成立はもちろん、運用も、改正も、その時々の国際情勢から自由ではありえない。グローバリゼーションを持ち出すまでもなく、近代以降、常にそうだと憲法史の教科書に書いてある。まして安全保障条項の改定となればなおさらである。

9条改憲で「戦力不保持」という欺まんを解消すれば法律的にすっきりはする。だが、「交戦権否定」の制約を取り払えば、同盟国アメリカの軍事行動に対する協力要請を拒む理由がなくなる。世界の警察官を自任する超軍事大国に鼻面を引き回されること必定だ。

日本の政治家が明確な世界政策を持ち、タフな交渉能力を備えていればいいが、自民党政権は9年前に公約した沖縄の普天間飛行場移設をいまだ実現できず、在日米軍再編をまとめられない。その体たらくを鋭く批判してきた民主党代表は偽メール1本で膝が折れ、自滅した。

もはや改憲はタブーではない。そのことは各種世論調査にもはっきりと現れているが、国家基本法たる憲法の安全保障条項を改めるための政治的条件が熟していない。極論を排して中庸を探る国際法の泰斗の穏やかなメッセージは、そういう問題意識によく響いた。

ゲスト / Guest

  • 大沼保昭 / Yasuaki Onuma

    東京大学大学院教授 / Professor, University of Tokyo Graduate Schools for Law and Politics

研究テーマ:憲法

研究会回数:7

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