2005年12月09日 00:00 〜 00:00
松尾邦弘・検事総長

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会見リポート

「他人事でない」裁判へ

若林 誠一 (NHK解説委員)

松尾検事総長の会見は、一昨年8月に続き2度目である。異例の再登板を快諾いただいたことに感謝したい。

テーマは裁判員制度である。制度の歴史的意義に触れたあと、検察にとっての重い課題について詳しく述べた。キーワードは「他人事にしない」と「ゼロからの構築」である。

明治以来、裁判はプロによる仕掛けであった。そこに素人が入る。年間約3千件、6人選ばれるので呼び出しを受ける国民は500人に1人に過ぎないが、裁判員は無作為に選ぶ。いつ自分が重大な判断に加わることになるかわからない。裁判は「他人事」ではなくなるのだ。主権者たる国民が、司法分野でも主役を意識するようになる。革命的な出来事だというのが松尾総長の認識である。

「ゼロから構築」はプロの側だ。素人が納得しなければ捜査の努力は無に帰す。どう分かりやすく説明し理解を得るか。模擬裁判の結果、これがきわめて難しいことが判明し、大きな衝撃を受けたという。

スピードの問題もある。素人が参加できるのはせいぜい3日、長くても5日だとする。その期間にすべて終わるよう、コンパクトな立証活動をしなくてはならない。そのうえ証拠の事前開示制度も始まり、検察得意の隠しだまも通用しなくなった。何から何までこれまでとは違うのである。検察官の徹底した意識改革、業務改革を「ゼロから構築」しなくてはならないというのである。

松尾総長は〝外交〟にも積極的だ。中学生に直接語りかけたり、日本経団連の奥田会長を訪ねて、協力依頼をした。検察トップとしては、異例の奮闘振りである。しかし、取り調べの録画、録音についての質問には、とたんに慎重になった。現場を抱える難しさをにじませていた。

ゲスト / Guest

  • 松尾邦弘 / Kunihiro Matsuo

    日本 / Japan

    検事総長 / Prosecutor-General, Supreme Public Prosecutors Office

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