2004年11月24日 00:00 〜 00:00
中野正志・朝日新聞総合研究本部主任研究員「著者と語る」

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会見リポート

「天皇制」を調査報道の視座で

田所 泉 (個人会員(日本新聞協会出身))

『女性天皇論』の著者である中野正志氏の報告に1時間、質疑応答が1時間弱。朝日の論説委員として01年5月にたまたま「論議は自然のことだ/女性天皇」を執筆した筆者は、志願して翌年に総合研究本部に移り、女性天皇問題の調査に没頭した。2年余の期間に数千冊の文献を読んだという。

克明な調べとその深さは半端ではない。そのことは、質疑で「天皇制と神道」の関係の問いに、即座に福永光司氏を引用して宮中祭祀への道教の影響を紹介し、伝統的な神道と明治期に作られた国家神道との違い、「万世一系」の神話と国家神道がほぼ同時に形成されたことを説明したところにもうかがえた。

著者の報告は、著書のダイジェストではなく、戦後の天皇制とジャーナリズムとの関係をいくつかの時期にわけて、反省をこめつつ振り返るものだった。明治期の「皇室典範」の男性中心の思想が、戦後の象徴天皇制への移行に際しても温存されて、こんにちの「お世継ぎ問題」に影を落としている。当時の政府はせめて典範には明治色を残すことが「国体の護持」につながると考えていたようだ、とは、著者が克明に新憲法の制定の過程を追って調べた上で見えてきた筋道である。それは、憲法の定める「法の下の平等」「男女同権」という人権の原則との間に、矛盾や解釈の「ねじれ」を生み出してもいる。

女帝の容認は皇室典範を改正すれば済むことだし、象徴天皇制を維持する前提に立つかぎり、もはや常識と言ってよいだろうが、著者の問題提起はそれを越えて、マスメディアの皇室報道のありようにも及んでいる。中野氏のこの仕事は、いわば一種の「調査報道」の成果とみた。

ゲスト / Guest

  • 中野正志 / Masashi Nakano

    朝日新聞総合研究本部主任研究員

研究テーマ:著者と語る

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