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受刑者「さん」付け戸惑いも(丸山 伸太郎 熊本日日新聞社地域報道本部社会担当)2024年4月

 2月、日本記者クラブの視察団として、東京都府中市にある国内最大の刑務所「府中刑務所」を訪れた。20万平方㍍超の広大な敷地を高さ5㍍超の塀が囲む。建物は想像していたよりも古い印象。空調が十分効いていないのか、「施設内の温度は屋外とあまり変わらない」と説明された通り、肌寒さを感じた。

 犯罪傾向が進んだ刑期10年未満の男性を中心に収容し、定員2668人に対する収容率は現在約60%。居室で黙々と折り紙を折る人、入浴の順番を待って整列する人、懲罰を受けて正座している人…。視察では刑務所内の日常が垣間見えた。

 一般社会と同様に刑務所内も高齢化し、知的障害や発達障害のある人も増えている。施設では自転車型トレーニング器具を使ったリハビリやタブレットによる脳トレを導入。高齢の受刑者が作業療法士や介護士に付き添われてトレーニングに励む姿は介護施設と何ら変わらなかった。

 名古屋刑務所で刑務官が受刑者に暴行や暴言を繰り返していた問題を受け、法務省は再発防止の一環で、受刑者の呼び捨てをやめて「さん」付け呼称にする取り組みを4月から全面的に始める。府中刑務所では昨年12月から一部試行している。

 リハビリ担当や居室担当の刑務官は違和感なく「さん」付けで呼んでいるという。一方、大人数を管理する作業工場担当の刑務官には「規則違反を注意する際もさん付けなのか」と戸惑いもあるようだ。施設内を案内した処遇部長は「正直、刑務所では厳しい管理が必要だと考える職員も中にはいる」と明かした。

 府中刑務所は地元自治体など外部からの見学を積極的に受け入れているという。今回の視察にも誠意を持って対応してくれたように感じた。受刑者のスムーズな社会復帰や不祥事防止のためにも、刑務所という施設が地域に開かれた存在であってほしいと思った。

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