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海洋放出 突き進む現場(髙田 盛宏 南日本新聞社東京支社報道部)2022年6月

 想像よりずっと小さかった―。廃炉作業が続く東京電力福島第一原発1~4号機を初めて間近に見た感想だ。水素爆発した瞬間のテレビ映像のインパクトが強いからか、超巨大な構造物を思い浮かべていた。

 勝手な思い込みかと感じ、視察に同行した別の地方紙記者に尋ねると「同じ感想」と明かしてくれた。多量の放射線をまき散らし、多くの住民のふるさとを奪った世界最大級の事故。地域の深い悲しみや憤り、行き場のない怒りの大きさを推し量り、実像を巨大化させていたのかもしれない。

 今回の視察は、汚染処理水の海洋放出に主眼が置かれた。高さ10㍍超の保管タンクが林立する中、処理水を沖合1㌔先まで流す「海底トンネル」新設に向け、立て坑の整備やシールドマシンの据え置きなど、敷地内では着々と準備が進む。

 東電は「地元自治体の同意が得られた後、速やかに敷地外での本格的な掘削に取りかかる」とする。地域理解の重要性を強調しながら、海洋放出に突き進む前のめりな姿勢には疑問が残る。

 視察中ずっと気になっていたことがある。「故郷で事故が起きたら…」。東シナ海に面する鹿児島県薩摩川内市には、九州電力川内原発が立地する。福島の事故を受け、運用を厳格化した新規制基準に適合したとして2015年、全国で初めて再稼働した。40年超の運転期限延長の話も進む。

 事故は再び起きる。原発を巡る事象を矮小化も誇張もせず、ありのまま伝える姿勢を心がけたい。

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