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震災後入社 若手プロジェクト/教訓を紡ぐ 連載で、イベントで(岩手日報社報道部 小向 里恵子)2022年3月

 東日本大震災の発生から間もなく11年。被災地ではハードの復興まちづくりはほぼ完了し、ようやく「日常」を取り戻しつつある一方で、次なる地震津波の危機が静かに忍び寄る。時間の経過とともに風化の懸念が増す中、教訓を未来に引き継ごうと、震災後に入社した私たちは社内プロジェクトチーム(PT)を結成し、1年半活動を続けてきた。

 

■2030代有志38人が集結

 

 これからの震災報道は、発生当時の現場を踏んでいない世代が必然的に中心となっていく。若手社員に向け、PTへの参加を呼び掛けると編集、営業、メディア、総務など幅広い部署から2030代の有志38人が集った。何を目指し、どんな紙面やイベントを展開するのかを話し合い、企画立案から取材、執筆、編集、情報発信まで一貫して担ってきた。

その成果の一つが連載企画「紡ぐ~鵜住居とともに~」だ。震災津波でまちが壊滅的な被害を受け、多くの犠牲者を出した釜石市鵜住居町。その出身者である前川晶記者(30)が古里を訪れ、住民との語り合いを通じて抱いた「思い」を主観で伝える。読者により届くように、当事者として一歩踏み込み、同郷の大学生と震災体験や古里について語り合ったり、逆境を乗り越えて郷土芸能を継承しようとする人たちの姿を伝えたり。2021年3月から3カ月に1回、カラー見開き2㌻で掲載し、現在も続けている。

 PTでは「紙面」という枠を超え、被災地の住民たちとじかに触れ合い、備えにつながる行動を促すイベントも試みた。震災10年に当たる同月には、親子向けに防災キーホルダー作りを企画。「紡ぐ~みらいを守る家族の約束~」と題し、40組109人が共同作業で災害時の「約束事」を書き込んだ。肌身離さず持ってくれれば、有事の確実な避難行動につながってくれるだろう。即日、特集紙面を組んでいる模様を紹介し、読者への浸透も図った。

 一連の取り組みに対し、若者の関心を引き付けるため、会員制交流サイト(SNS)も活用してきた。ツイッターで取材の様子や町の風景、イベント情報を発信したり、インスタグラムで新聞を使った防災グッズの作り方を紹介したり。連載の取材時は映像も撮影し、まとめた動画をユーチューブに投稿もしている。

 PT結成から2年。アイデアを練り、それを形にする作業は試行錯誤の連続だった。当初は報道部2人が事務局を務めたが、部局が違えば思いも、アプローチも異なる。多様な意見の集約に苦労した。反省を踏まえて2年目は営業、編集、メディアなど各局に事務局メンバーを配置。現在は管理職も交えて月1回のミーティングを持って情報共有し、次の展開を話し合っている。

 

教訓つなぎ成長の機会に

 

 本紙の震災報道は編集局にとどまらず、広告やメディアも含めた全社的なキャンペーンとして力を注いできた。PTを通じてメンバー一人一人が震災や防災について理解を深め、課題意識を養うことができたほか、部署の垣根を越えたつながりができ、仕事への自信や意欲も高まっている。

 東日本大震災で岩手県は、5千を超える死者、行方不明者が出た。あの悲劇を繰り返さないため、震災報道を続け、教訓をつなぎ、未来の命を守る。それが地域密着の新聞社の大きな使命だ。担い手として成長するため、PTは貴重な機会になっていると確信している。

 

こむかい・りえこ2013年入社 整理部 二戸支局などを経て 19年4月より現職

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