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「世界最大の原発」の現状  崩れゆく「神話」と再稼働の行方(上田 俊英)2017年8月

 

新潟県の柏崎市、刈羽村にまたがる東京電力柏崎刈羽原発は、7基の出力が計820万キロワットを超える「世界最大の原発」だ。その再稼働の先行きが見通せないなか、議論の現場を総勢26人で訪ねた。

 

「再稼働は地域振興に役立つと言われるが、本当にそうなのか」

 

原発検証報道を続ける新潟日報で、三島亮・編集局次長兼報道統括部長が発した問いは立地自治体のみならず、日本がこれから原発とどう関わっていくのかを考える上で、極めて重要だ。同紙は2015年12月~16年6月の連載「原発は必要か」のなかで、原発の「経済神話」を検証した。

 

無作為抽出した地元企業100社にまず「原発全基停止による売り上げの減少はあるか」を尋ねたところ、「ない」という回答が3分の2を占めた。一連の調査で、原発が地域経済に貢献するというのは「根拠に乏しい神話」であることがわかったという。

 

「では、原発の安全神話や経済神話はどこから生まれるのか。原発のような巨大電源のリスクを地方に引き受けさせるには、神話が必要だった」と三島さんはみる。その上で「一番の問題は、立地自治体の意見を公的に反映させる仕組みが整っていないことだ」と指摘した。

 

こうした現実に、県民も気づいているのか。昨年10月の県知事選で、「県民の命と暮らしが守られない現状において、再稼働は認められない」とする米山隆一知事が誕生した。

 

県は東電福島第一原発事故を受け、既存の「技術委員会」に加えて「健康・生活委員会」と「避難委員会」、さらにこれらをまとめる「統括委員会」を設置。事故検証を独自に進める。

 

県庁で会見した米山知事は「再稼働について、県として責任をもって話すには、検証がいる」と強調した。検討にかかる期間については、「3~4年」という見解を、繰り返し述べた。

 

「3~4年で結論が導けるのか」という質問には、「わからないことはわからないなりに、それが結論だと思う」「そうした現実のなかで、常識的なコンセンサスがとれる」などと答えた。

 

東電柏崎刈羽原発では、新設された防潮堤をはじめ、再稼働に向けた対策工事などの現状を見た。

設楽親所長は、県が進める検証との関わりについて、「県からのアプローチはない。われわれができることは検討しており、(県の方針が)わかった時点でしっかり対応する」と話した。

 

原発の大事故が引き起こす惨禍を、全ての日本人は福島第一原発の事故で学んだはずだった。今回、新潟で再稼働をめぐる議論を聞き、その教訓がここではまだ生かされていると感じた。

 

(企画委員・朝日新聞編集委員)

 

■日程

8月9日(水)長岡駅前集合、バスで東京電力柏崎刈羽原子力発電所へ▼概要説明の後、左記の施設見学▽副防護本部(免震重要棟)▽防潮堤▽6号機建屋内▽設楽親所長との質疑応答▼新潟日報本社訪問、三島亮編集局次長兼報道統括部長▼米山隆一新潟県知事会見(県政担当記者も出席)▼新潟駅で解散【参加:26人】

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