2024年02月07日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「大学どこへ」(7) 伊藤公平・慶應義塾長

会見メモ

慶應義塾の伊藤公平塾長が、「日本の大学の役割」と題し、大学を取り巻く環境の変化とその中での大学の役割、大学経営のあり方などについて話した。

 

司会 黒沢大陸 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

「カメ社会」の良さ引き出せ

恒川 良輔 (読売新聞社教育部)

 「欧米で繰り広げられる競争社会を日本も目指すべきなのか」。伊藤塾長は、西洋の指標で自分たちを評価することこそが、大学や日本社会の危機を招いているのではないかと問題提起した。

 欧米では、イソップ童話「ウサギとカメ」の主役は能力の優れたウサギであり、「敵を見くびるな」という教訓を伝える話とされていると紹介した。一方、日本は真面目に努力したカメが主役であり、欧米とは価値観が大きく異なると述べた。

 競争原理で伸びる人だけが伸び、一握りの優秀な集団が国や経済を引っ張る「ウサギ社会」がグローバル化のお手本とされているが、「本当に我々の社会になじむのだろうか」と疑問を投げかけた。最近よく聞くコンプライアンスやガバナンスの強化、大学ランキングによる格付けなどは、いずれもウサギの暴走を防いだり、競争をあおったりするための指標であり、「真面目なカメに適用するだけでは、突っ走るウサギに勝つのは難しい」とも指摘した。

 伊藤塾長は、カメの良さを引き出す教育システムの構築が必要と主張する。主宰した大学の研究室では、激しく競争すると思った各国の留学生たちが日本の学生と触れ合って「和をもって貴しとなす」を体感するうちに、後輩の面倒を見たり、日本文化の理解を深めたりするようになったという。留学生たちにとっては、互いにコツコツ積み上げる「カメ社会」の学び方が良かったようで、結果的に日本企業への就職や世界での活躍につながったと説明した。

 福沢諭吉は生涯を通じて「非西洋の近代化は可能か」を問い続けたという。伊藤塾長は、「人間や社会を豊かに平和に導くという利他的な目標を共有し、各大学が建学の精神に基づき独自の創造性を発揮する。これこそが私も含めた大学執行部の責任である」と述べ、幕末や戦後に続く開国期である今こそ、日本独自の教育システムを作っていくことが大切だと強調した。


ゲスト / Guest

  • 伊藤公平 / Kohei ITOH

    慶應義塾長 / President, Keio University

研究テーマ:大学どこへ

研究会回数:7

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