2024年01月22日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「大学どこへ」(5) 大庭良介・筑波大学准教授

会見メモ

筑波大学准教授の大庭良介さんが、日本の研究活動と大学運営の実情、ノーベル賞の種の蒔き方などについて話した。

 

昨年8月、大庭さんらの研究チームによる論文「生命科学・医学分野における萌芽的トピック創出に対する科研費の費用対効果」が査読つきの科学雑誌「プロス ワン」に掲載され、耳目を集めた。論文では「高額な研究費を少人数に集中するよりも、少額でも多くの研究者に配分する方が、国全体としては効率よく成果を得られる」とした。

 

司会 倉澤治雄 日本記者クラブ企画委員


会見リポート

画期的研究の種をまくには

山田 哲朗 (読売新聞社論説委員)

 研究費のあり方を巡っては、有能な研究者に手厚く資金を投入した方がいいのか、それとも、少額のお金を広く薄く平等に配った方がいいのか、という議論がある。

 近年は、財政状況が厳しい中、従来型の「ばらまき」は許されず、成果が見込める分野に資金を重点配分する「選択と集中」が優勢な流れだと言えよう。

 しかし、国立大学の基盤的経費がじわじわと減り、若手研究者が安定したポストに就けないなど現場の窮乏が明らかになるにつれ、「行き過ぎた『選択と集中』を改めるべき」という揺り戻しもある。

 そんな折に発表された大庭氏の論文が注目を集めることになった。生命科学・医学分野の科学研究費助成事業(科研費)を分析したところ、新分野の開拓につながるような論文は、研究費の額が大きくなると増えるものの、5000万円を超えると頭打ちになった。投資効率で見ると、500万円以下の研究の方が効率が高いという結果になった。

 「研究者にとって、5000万円以下の研究費を受け取る方が良い。研究費を出す側からみても、過去の研究実績によらず、少額の研究費を多くの研究者に分配するのが得策ではないか」と指摘する。

 ノーベル賞級の革新的な発見は、過去の常識や流行にとらわれない、独創的な少人数のグループから唐突に現れる側面がある。「国際化より、ガラパゴス化した方がノーベル賞級の研究の生産効率は高まる」という意外な分析結果も示す。

 もちろん、これは基礎研究の分野で特に顕著な傾向なのだろう。大庭氏は「応用研究や産業化では『選択と集中』も有用だろう」とフェアな態度だ。研究費の分配はイデオロギー論争になりがちだが、まずは、日本の研究力を高める方策をエビデンスをもって議論することが重要だ。


ゲスト / Guest

  • 大庭良介 / Ryosuke OHNIWA

    日本 / Japan

    筑波大学准教授 / associate professor, University of Tsukuba

研究テーマ:大学どこへ

研究会回数:5

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