2024年01月10日 15:00 〜 16:30 9階会見場
「2024年経済見通し」(1) 白井さゆり・慶應義塾大学教授

会見メモ

シリーズ初回のゲストとして、慶應義塾大学教授の白井さゆりさんが登壇。データをもとに、内外経済と日本を含む世界の財政・金融政策の見通しなどについて語った。

 

司会 菅野幹雄 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞社)


会見リポート

日銀政策に柔軟さが必要

村松 雅章 (日本経済新聞社編集 総合解説センター)

 2024年の日本は元日早々、能登半島地震に襲われた。多くの犠牲者を出し、今もたくさんの方々が苦しんでいる。せめて経済に明るい見通しはないだろうか。そんな心持ちで経済学者・白井さゆり氏の話を聴いた。冒頭で耳に飛び込んできたのは「不確実性」という言葉だ。

 今年は日本経済の節目となる出来事が想定される。金融政策の正常化だ。日銀は異次元緩和を長年続けてきたが、昨年総裁が交代して以降、出口へ進んでいるようにみえる。市場は年央までの政策変更を織り込む。

 一方、日銀審議委員を務めた白井氏の見立ては慎重だ。実質賃金は下落が続きそうだし、インフレ率は2%を下回ってくる可能性がある。賃金と物価の好循環からはほど遠く、成長率は1%程度。「正常化のタイミングは難しい」と指摘した。

 正常化へ動くとして「金利のない世界」に慣れきった私たちは耐えられるのか。住宅ローン金利は上がり、中小企業は資金調達しにくくなる。防衛費など恒常的な歳出増が見込まれるなか、日銀が国債の大量買い入れをやめれば「増税するしかない」と白井氏は断言した。

 当たり前のことがあらぬ方へ転がり、想像もしなかった結果になる。不確実性の時代を生きる私たちに、白井氏は「柔軟さ」というヒントをくれた。

 2%の物価目標を重視してきた日銀に「インフレ目標に1~3%と幅をもたせ、3年ごとに見直してはどうか」と提案した。「教育無償化は不足する理数系に的を絞ったほうがいい」と横並び主義にも切り込んだ。想定外を克服するには、どんな選択肢も排除しない柔軟さが必要だ。

 今年の世界経済にとって最大の波乱要因は11月の米選挙だ。大統領選ではトランプ氏が返り咲きを狙う。好調な米経済にどう影響するのか。誰がホワイトハウスの主になってもたまげないよう、脳みそをやわらかくしていきたい。


ゲスト / Guest

  • 白井さゆり / Sayuri SHIRAI

    慶應義塾大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:2024年経済見通し

研究会回数:1

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