2016年10月26日 15:00 〜 15:45 9階会見場
ヤサイ・比外相 アベリャ比大統領報道官 会見

会見メモ

ドゥテルテ大統領と共に来日した側近閣僚2人が会見。弁護士出身の外相は「米比相互防衛条約を打ち切る必要はないが、米比合同軍事演習は中国の疑念高める」「南シナ海問題が中比関係のすべてではない」と新政権の外交方針を語った。(左:アベリャ報道官、右:ヤサイ外相)

司会 土生修一 日本記者クラブ専務理事


会見リポート

米比合同演習打ち切り発言、にじむ対中配慮

吉岡 桂子 (朝日新聞社編集委員)

初めて来日したフィリピンのドゥテルテ大統領に同行するヤサイ外相とアベリャ報道官が、日本、米国、そして日本に先がけて訪問した中国との関係を説明した。米国との同盟の維持とあわせて、大統領の米比合同軍事演習とりやめ発言の背景に中国への配慮があることを示唆した。

 

ヤサイ外相はまず、大統領訪日の目的を「強力な戦略的パートナーシップのさらなる強化」とし、安全保障、経済や防衛協力、インフラ整備、ドゥテルテ氏が長く市長を務めたダバオ市があるミンダナオ島の開発などについて幅広く協議をする意義を語った。日本が長く続けているODAへの謝意も忘れなかった。

 

米国との同盟関係について、会場から問われたヤサイ外相は、「今の時点で打ち切る理由はない」と語る一方で、「(米比)合同演習は続けないだろう」との見通しを示した。その理由として「(同盟が)必ずしも合同演習を要件としていない」ことに加えて、「中国側の疑念を高めかねない」とも述べた。

 

さらに、米国との同盟は、南シナ海における中国との紛争と「関係ない」と明言し、「南シナ海での争いが中国との関係のすべてではない」と語った。中国との協議は「時期が来たら」とする曖昧な表現にとどめた。前週の訪中の目的のひとつとして、「中国との間で信頼を醸成し、平和的な解決を目指して2国間で交渉できる環境を作る」ことを挙げ、米国との合同軍事演習は中国側の疑念を高めかねず、交渉に差し障る懸念を示した。中国との関係については、問われる前に自ら切り出したのが印象的だった。

 

同席したアベリャ報道官は「過激」と受け止められている大統領の米国に対する発言を念頭に、フィリピン人の「アイデンティティー」「自尊心」「(国際社会での)尊厳ある立場」を意図したもの、と説明した。翻って、「互恵」の関係を築ける日本などアジア各国との関係を評価してみせた。その意味では、日本、中国とも、米国との対比で語られている。

 

安倍晋三首相が同日の首脳会談でも強調した、地域における日米同盟が果たす役割にかかわる質問には、2人とも回答を避けた。ドゥテルテ大統領が会談で述べた「常に日本の側に立つ」というセリフは、この会見では出なかった。日本との関係に満足し、重視する姿勢を見せながらも、終始、中国への配慮がにじんだ。

 

ヤサイ外相は、米国と同盟関係を結んだ1950年代と現在との国益のありようの変化に沿って、関係を見直す合理性にも触れていた。それは当然、地域における秩序の変化を伴ってのことだ。大統領の「放言」「反米」だけでは片付かない、この問題が根幹に横たわっているからこそ、フィリピンの動向が注目されている。

 

前日に決まった緊急会見にもかかわらず、ドゥテルテ旋風への関心は高く、会場には120人が詰めかけた。


ゲスト / Guest

  • ヤサイ比外相 アベリャ比大統領報道官 / Perfecto R.Yasay, Secretary of Foreign Affairs / Ernesto C.Abella, Presidential Spokesperson

    フィリピン / The Republic of the Philippines

ページのTOPへ