2016年09月07日 14:00 〜 15:00 10階ホール
「HIV/エイズ」 陽性者1000人調査 井上洋士氏/高久陽介氏

会見メモ

国内のHIV陽性者を対象に大規模ウェブ調査を実施したFutures Japanプロジェクトの井上洋士代表(放送大学教授)と、その調査結果を踏まえ厚生労働省に要望書を提出した日本HIV陽性者ネットワークJaNP+の高久陽介代表が調査の概要について報告し、記者の質問に答えた。
司会 宮田一雄 日本記者クラブ企画委員(産経新聞)

左=高久氏、右=井上氏


会見リポート

陽性者1000人アンケート実施 エイズ対策へ要望書提出

宮田 一雄 (企画委員 産経新聞特別記者)

Futures Japanプロジェクトは、国内のHIV陽性者の声をエイズ政策に反映させるために活動するグループで、2013年7月~14年2月にHIV陽性者を対象に大規模ウェブ調査を実施し、約1000人の回答を集約、分析した。

 

HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス(JaNP+)は、国内のHIV陽性者を中心とする特定非営利活動法人で、大規模調査の分析結果を踏まえ今年7月、他のHIV当事者団体、支援団体とともに「エイズ対策への要望書」を厚労省に提出した。

 

会見ではまず、高久さんがHIV/エイズに関する基礎情報とJaNP+の活動について概括したうえで、要望書の概要を報告した。その後で、放送大学教授でもある井上さんが、要望書の根拠となる調査の分析結果について説明した。

 

要望書はHIV陽性者の立場から以下の4点を求めている。
(1) HIV陽性者のメンタルヘルス改善および相談先の充実
(2) 院内他科(エイズ拠点病院のエイズ診療以外の診療科)、一般医療機関、介護福祉施設などとの連携強化
(3) 子供を持ちたいと考えるHIV陽性者への十分な情報の提供
(4) 依存症患者への回復支援

 

(1)については、調査に回答したHIV陽性者の半数以上に不安障害、うつ・気分障害が疑われる結果が出た。また、HIV陽性であることを周囲に知られないようにがんばる、他の人とHIV話題にするときにウソをついているなど、HIV関連の差別や偏見を恐れ、日常生活を規制する傾向も強く、それが抑うつや不安度の高さと有意な関係があることが明らかにされた。

 

(2)はHIV治療の進歩で、HIV陽性者が長く生きていくことが可能になった結果、陽性者はHIV診療の専門科以外にも、風邪をひいたとか歯が痛いなどさまざまな症状で医療機関を訪れる機会や介護福祉施設を利用する機会が増える。しかし、医療機関や介護福祉施設側で差別や偏見、感染不安などの意識が強いと診療拒否があったり、施設の利用を断られたりすることになる。

 

(3)では、抗レトロウイルス治療の進歩で、必要な治療を継続して受けていれば、HIVに感染したお母さんから生まれてくる赤ちゃんがHIVに感染している可能性はほぼゼロに近いほど低く抑えることができる。また、調査ではゲイ・レズビアンで子供が欲しいと考えている人も24%に達していた。こうした情報や認識はHIV陽性者自身にも、その他の人たちにも広く共有される必要がある。

 

(4)では、HIV陽性者の74%が薬物使用経験ありと回答していた。過去1年間の使用経験者も31%に達していた。依存症の治療として薬物対策をとらえ、治療環境を整えることはHIV診療や感染予防の観点からも重要だ。

 

わが国のエイズ政策は感染症法に基づくエイズ予防指針に沿って進められている。この予防指針はほぼ5年ごとに改訂されており、来年がその見直しの年にあたるため、調査はそれを念頭に置いて実施し、要望書がまとめられた。Futures Japanプロジェクトでは、今後も継続してこうした地道な作業を続ける方針で、今年12月には第2次大規模ウェブ調査を開始する予定だという。


ゲスト / Guest

  • 井上洋士 Futures Japanプロジェクト代表/高久陽介 日本HIV陽性者ネットワークJaNP+代表 / Yoji Inoue, Futures Japan / Yosuke Takaku, Japanese Network of People Living with HIV/AIDS

    日本 / Japan

研究テーマ:HIV/エイズ

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