2016年06月28日 16:30 〜 18:00 9階会見場
著者と語る 仏ジャーナリスト アントワーヌ・レリスさん 『ぼくは君たちを憎まないことにした』

会見メモ

2015年11月13日のパリ同時多発テロで妻子を失ったフランスのジャーナリスト、アントワーヌ・レリスさんが著書『ぼくは君たちを憎まないことにした』(ポプラ社)の日本語版出版を機に会見し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)
通訳 臼井久代


会見リポート

レリスさんからの贈り物

中村 秀明 (毎日新聞社論説委員)

「ぼくは君たちに憎しみを贈ることはしない」

 

それは、パリ同時多発テロの犠牲者の遺族の理性的な声明ではなく、寛容さを保つ大切さや憎悪からは何も生まれないことをジャーナリストとして訴えたものでもなかった。

 

愛する妻エレーヌさんが自分たちの世界から突然にいなくなったことを受け止めきれない心の叫びであり、じっとしていたら憎しみや怒りにかられてしまう自分を抑えるために言葉を発したのだ。

 

息子を寝かしつけ、「妻が帰ってくるまで起きていよう」と考える場面から始まる彼の著書を読み進めていくと、そう思えてくる。

 

フェイスブックへの投稿は事件の3日後。その間に彼の気持ちは揺れ動き、居場所もなくさまよい続けている。会見でも「自分自身のために書いたのです」と語った。

 

フランス人が信条とする「自由」を幾度か強調した。「息子さんが犯人に憎しみを抱いたらどうしますか」との問いに、「自由でいられるよう、強くなれるよう、その方法をメルヴィンに与えていきます」と答えた。憎しみや怒り、恐れにとらわれたくないのは、何よりも心が自由ではいられなくなるからだろう。

 

質疑応答は、時に禅問答のようになった。最初は、そうしたやりとりに戸惑ったが、次第に彼の言いたいことがのみこめてきた。

 

すぐに道を求めようとしていないか、わかりやすい答えを欲しがっていないか。そして、私に何か教えを乞おうという気でしょうか、と。

 

たとえば、欧州を覆う移民問題、難民問題への見解を求められ、彼はこう答えた。「完璧な答えがあったらどんなにかいいかと思う。だが、私もみなさんもジャーナリストです。『これぞ真実!』というのには疑ってかかる人間ではないですか」

 

道を示すよりも、問い続けることが大切なのだと受け取った。


ゲスト / Guest

  • アントワーヌ・レリス / Antoine Leiris

    フランス / France

    ジャーナリスト / Journalist

研究テーマ:『ぼくは君たちを憎まないことにした』

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