2016年05月23日 15:00 〜 16:30 10階ホール
「蔡英文の台湾」林成蔚 常葉大学教授

会見メモ

陳水扁政権の国家安全会議シニア・アドバイザー、民進党本部国際部部長などを務めた林成蔚常葉大学教授が蔡英文政権誕生の経緯や展望について話し、記者の質問に答えた。
司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

不確実性の時代の不安

金子 秀敏 (毎日新聞出身)

5月20日、民進党の蔡英文主席が新しい台湾総統に就任して3日後の会見だった。テーマは「蔡英文の台湾」。蔡政権で台湾はどうなるか、蔡政権を生んだ台湾社会はどう変化したか、2つの問題に注目した。

 

20年前、台湾初の民選総統に李登輝氏が選ばれた。その時から総統選挙を見てきた。毎回、台湾の熱気にあおられて高揚したが、今回は政権交代が起きたというのに、総統就任式後もどこか不安が残る。「不確実性の時代に入った」という国民党の洪秀柱主席の言葉が引っかかる。台湾も中国も、米国も日本も、近未来になにが起きるかわからない霧の中に入ったのではないか。そう思って聞いたせいか、林成蔚氏も慎重に言葉を選んでいるように思えた。

 

林氏は、台湾社会の変化を示す例のひとつとして129万人の「首投族(今回、初めて選挙権を行使した若い有権者)」の投票傾向を挙げた。蔡氏の得票は4年前の総統選より約80万票増えているので、若い世代の票が蔡氏に流れた可能性がある。

 

首投族が生まれた時、台湾の民主化が起きた。生まれたときから民主主義体制のもとで育った若者たちが、民主主義を認めない中国から「ひとつの中国」を押しつけられても同意できないのは無理もないことだ。今後、選挙権を得る若者たちが「自分は中国人」というアイデンティティーを持つとは考えにくい。

 

だが、建国以来、民主主義を体験したことがない中国人には台湾の若者の意識は理解できない。まして習近平主席は文革世代だ。最近の発言を見ると「共産党への忠誠」だの「共産党中央への絶対服従」だの、アナクロな思考が目立つ。台湾が「絶対服従」を拒否すれば、武力行使をためらわないかもしれない。

 

蔡総統は独裁政権の恐ろしさを知る世代。中国に関する発言は極めて慎重。不確実性の時代の台湾には蔡氏の智慧が必要だ。


ゲスト / Guest

  • 林成蔚 / Chen-Wei Lin

    台湾

    常葉大学教授 / Professor, Tokoha University

研究テーマ:蔡英文の台湾

研究会回数:1

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