2016年04月14日 18:30 〜 20:20 10階ホール
試写会「オマールの壁」

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会見リポート

占領に直面する人々のジレンマ

出川 展恒 (NHK解説委員)

パレスチナが置かれた社会状況とそこで暮らす人々のジレンマを巧みに描いている。「壁」とは、イスラエルが「自爆テロを防止するため」と称して、イスラエル領とヨルダン川西岸地区を隔てるように建設した「分離壁」で、総延長は700キロを超える。1949年の休戦協定で定められた境界線(グリーンライン)より大きくパレスチナ側に食い込み、場所によってはパレスチナ人の町や村を分断している。高さ8メートル、そびえ立つ頑丈な壁の前に立つと、動かしがたいイスラエル占領の現実に圧倒させられる。

 

パン職人のオマールは、壁をロープでよじ登っては、壁の向こう側に住む恋人のナディアのもとに通っていた。ある日、監視中のイスラエル兵士らから屈辱的な扱いを受け、仲間たちと検問所のイスラエル兵士を銃撃し、捕らえられてしまう。イスラエルの秘密警察の激しい拷問を受け、一生収監されるか、イスラエルの「協力者」(スパイ)になるかを迫られる。

 

実際、イスラエルはこうした「協力者」を大勢つくり、パレスチナ社会に潜入させ、武装組織の指導者らを暗殺したり、逮捕したりしてきた。ひとたび「協力者」のレッテルが貼られたら、二度とパレスチナ社会では生きてゆけない。

 

私自身、こうした「協力者」の聞き取り取材をした経験があるが、圧迫され揺れ動く心理の描写は、映画の方が生々しくリアルだ。「壁」=「占領」は、家族や友情、愛までも引き裂き、社会をむしばんでゆく。

 

ハニ・アブ・アサド監督はイスラエル国籍を持つパレスチナ人。「この作品の主題は、〝信頼〟であり、それがいかに重要で、不安定であるかを描くことだ」と語っているが、ラストシーンに込めたのは、いかなる状況に置かれても屈しない「不屈の精神」だったのかもしれない。


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  • オマールの壁

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