2016年04月14日 17:00 〜 18:15 9階会見場
シリーズ企画「揺らぐ欧州」①渡邊啓貴 東京外国語大学教授(欧州国際関係史・仏政治外交)

会見メモ

東京外語大の渡邊啓貴教授が、欧州の現状について歴史をふまえて解説し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

統合プロセスに楽観 これまでも危機を乗り越えてきた

駒木 克彦 (時事通信社 時事総合研究所)

ギリシャをはじめとしたユーロ圏諸国の財政危機、ロシアのクリミア編入など一連のウクライナ危機、大量流入する難民、そしてテロ。欧州は今まさに満身創痍の状態にあるといえる。こうした問題に直面し、欧州社会は行き詰まっているとの悲観論が大きく取り沙汰される中、渡邊教授は今回の会見で、「そんなに悲観するものなのだろうか」と述べ、「あえて」という言葉を使いながら、楽観的な見通しを示した。

 

渡邊教授によれば、ウクライナ危機は冷戦後の国際秩序を動揺させており、欧州でのイスラム過激派によるテロは西欧的な価値観が脅威にさらされているが、欧州はその統合プロセスを捨てることはない。それは、欧州という「信用」「ブランド」があるためだという。従って、深刻な財政危機にあるギリシャを見捨てることもない。きたる英国の国民投票で、英国は欧州連合(EU)に「NO」を突きつけることはないだろうが、たとえEUからの脱退が決まったとしても、EUとしては統合という看板を捨てることはないと分析した。

 

欧州はこれまでも危機に遭うたびに、これを乗り越え、統合プロセスを進めてきた。国際秩序形成の責任を有している欧州の試行錯誤の経験から、日本としても学ぶことは多いと渡邉教授は指摘する。

 

ただ、国際秩序と西欧的価値観に動揺をもたらしている今回の危機は、これまでよりもさらに深刻な影響を欧州に与えているとの印象はぬぐえない。渡邊教授は、統合プロセスは停止しないと分析しているが、停滞は避けられないのではないか。

 

EUは統合プロセスをさらに発展させ、国際秩序構築に向けて大きな役割を果たすことができるのか。それとも国際問題における欧州の知性の一人、ユベール・ベドリヌ元仏外相が著書『国家の復権』で指摘しているように、国家を超えたグローバルな統治は幻影であり、世界の安定の根幹は「国家」なのか。欧州はその未来に向け、今が正念場にある。


ゲスト / Guest

  • 渡邊啓貴 / Hirotaka Watanabe

    日本 / Japan

    東京外国語大学教授(欧州国際関係史・仏政治外交) / Professor, Tokyo University of Foreign Studies

研究テーマ:揺らぐ欧州

研究会回数:1

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