2016年04月07日 18:00 〜 19:30 10階ホール
試写会「ふたりの桃源郷」

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会見リポート

こころは山に 支え合う夫婦、25年間の記録

梶本 章 (朝日新聞出身)

「私たちも、いずれ、ああなるのね」。試写会の帰り、エレベーターに乗り合わせた老夫婦が、そうささやいていた。人生いろいろ、夫婦もいろいろではあるが、私も何やらしみじみとした思いにひたっていた。

 

電気も水道もない山の生活。木を切って薪を作り、湧き水を集めて顔を洗い、風呂をたく。そして日がな一日畑を耕す。深いしわが刻まれた白い髪の二人の顔が実にいい。なるほど「ふたりの桃源郷」だ。

 

ドキュメンタリーの主人公、田中寅夫、フサコさんは戦時中に結婚。終戦で帰還した寅夫さんは山を買って開墾を始める。途中、子育てのため大阪へ出るが、また山に戻り、病に倒れ老人ホームに入居するまで、30年近く、こんな生活を続けてきた。

 

それにしても何で山にこもったのだろう。「郷愁」「老人の自立」「農を中心に据えた生き方」。パンフにはいろいろ書かれていたが、何か違う。言葉に表したらどこか違ってしまう、そんな「何か」なのだろう。

 

三人の娘は老いの進む両親を何かと気にかける。引き取ろうとするが、二人は山を離れない。ついに三女夫婦が大阪の寿司屋をたたんで、山の麓の町に引っ越してくる。そしてがんを患った父を93歳で看取り、その5年後、認知症が進んだ母を同じ歳で看取る。

 

三女の夫が義理の母を山に連れて行ったり顔をなでたり気にかけるシーンは驚いた。なかなかできることではない。実は私にも93歳の母が神戸で一人暮らしている。早々に帰ってみることにした。

 

そして足かけ25年。夫婦と家族の歴史を追い続けた山口放送とスタッフの底力に驚いた。四季折々に桃源郷の様子を撮り、ニュースで流したものをまとめた。まさに継続は力と思った。


ゲスト / Guest

  • ふたりの桃源郷

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