2013年04月05日 14:00 〜 15:00 10階ホール
著者と語る『なつかしい時間』 長田弘 詩人

会見メモ

詩人の長田弘さんが著作『なつかしい時間』について話した。題名をひらがなにしたのは、懐古の懐の漢字にすると、昔のことと思われがちになる。その意味が定着し、現代日本ではよくないことと思われている。石川啄木の「ふるさとの訛りなつかし・・・」のなつかしいには過去を振り返るのではなく、ふるさとを現在形としてとらえていると思う。このように、なつかしいを現在形で使ってみたかった、と述べた。福島市出身としての東日本大震災への思いについても語った。風景を取り戻さないと、記憶も戻らない。山とか川は震災にあっても変わらない。そのような風景によって人はいかされている。風景と共存していかなければ、被災の体験を伝えていくのは難しい、とも。

司会 日本記者クラブ企画委員 星浩(朝日新聞)


会見リポート

生き物すべてが被災 思いが言葉にあらわれる

星 浩 (企画委員 朝日新聞特別編集委員)

アベノミクスだ、領土問題だと、ふだんはこむずかしい話題が続いて、何かと気ぜわしい日本記者クラブだが、時には穏やかな時間が流れることがあってもよい。
詩人の長田弘さんがNHKの「視点・論点」で話した中身が岩波新書にまとめられ、長田さんの思いを語ってもらった。
著書は、1995年から2012年までの話を収録。阪神淡路大震災から東日本大震災まで、折々の感慨が、時には長田さんの詩を紹介しつつ、淡々と語られている。
著書を語る長田さんからは、詩人らしい感性がにじみ出ていた。
「この本の内容は20世紀と21世紀をまたいでいます。ふたつの世紀の大きな違いは、ボキャブラリーが変わったことでしょう。20世紀の言葉は誰かが見える形で直してくれた。21世紀はフォーマットがあって、それに従って直されていく」
福島市出身の長田さんにとって、2年前の東日本大震災と東京電力福島第一原発事故への思いは、人一倍強い。
「福島県内の文学賞の選考委員をしているが、原発事故以降、お年寄りの詩には、ミツバチが死んだとか、トカゲが出てこなくなったというものがあった。原発事故は人間に大きな被害を与えただけではない。生き物すべてが被災してしまったのです」
今回の「著者と語る」を司会してひとつ、気がかりなことがあった。「福島出身の詩人」が、大震災と原発事故についてどんなメッセージを出すのだろうという関心は、日本記者クラブの会員の中にあまりないのだろうか。当日の出席者は24人と、きわめて低調だった。
現役の記者諸兄もOBの方々も、日々のニュースを追いかけるのに忙しいのだろう。それでも、これが震災と原発事故の「風化」を物語るのだとしたら、とても残念なことだ。

ゲスト / Guest

  • 長田弘 / Osada Hiroshi

    日本 / Japan

    詩人 / Poet

研究テーマ:著者と語る『なつかしい時間』

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