2012年03月09日 18:00 〜 20:05 10階ホール
試写会 『別離』 イラン映画 (2011年制作)

申し込み締め切り

会見リポート

脚本、映像の力みせる秀作

浅井 泰範 (朝日新聞出身)

映画は、もっと気楽に見るものかもしれない。だが、この映画は重かった。考えさせられた。いい作品である。


脚本の構成がすごい。緻密、周到きわまりない。舞台はイランの首都テヘラン。中学生の一人娘と認知症の老いた父親を持つ結婚14年の夫婦。押し寄せるグローバリズムの波の中で英語教師の妻は娘を連れて国外に出ようと促す。


夫は父親をどうするのだと反対し、娘にペルシャ語の大切さを説き、祖国に生きる道をすすめる。夫婦に別離の影がのしかかってくる。


不安な将来、子どもの教育、親の介護。世界中の中流階層が直面する問題に、脚本は、失業中の夫に内緒で、幼い女の子を連れて、共働きの中流夫婦の老父を世話して生計を支える下流階層の女性をからめる。カネ、コーラン、暴力、ウソ、流産などなど、社会や命の根源を問う場面が次々と展開する。緊張感の盛り上がりは圧倒的である。


とくに、うなったのは、2つのシーン。まず、母親がいない隙にベッドに横たわる老人の酸素吸入器のバルブを幼い子がいじって開け閉めし、老人の呼吸が乱れる場面。無知な心の戯れが重大な結果の招来を左右する。もう一つは、両親はゆずらないまま、判事に、父母のどちらにつくかと迫られた娘が自らの決断を表明する場面。固唾をのんで見つめる中で、エンドロールが流れ出す。いずれも無言。映像の力が極限に示される。


娘の選択は、みなさんどうぞご推測をと、「別離」が「絆」に置き換わる希望を提示する。監督はもとより、出演した俳優がみなうまい。


アカデミー賞、金熊賞ほかもろもろの授賞の賛辞に、私も加わる。



ゲスト / Guest

  • 試写会 『別離』 イラン映画 (2011年制作)

前へ 2024年03月 次へ
25
26
27
28
29
2
3
4
5
9
10
11
12
16
17
20
23
24
30
31
1
2
3
4
5
6
ページのTOPへ