2012年01月30日 15:00 〜 16:30 10階ホール
シリーズ研究会「権力移行期の世界」「台湾」小笠原欣幸 東京外国語大学准教授

会見メモ

馬英九総統が再選された台湾総統選(1月14日)について、小笠原欣幸・東京外国語大学准教授が現地取材に基づいた分析と展望を語り、質問に答えた。各国の選挙や指導者交代をテーマとするシリーズ研究会「権力移行期の世界」の第一回。


小笠原欣幸さんのホームページ

http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/ogasawara/


小笠原さんは総統選の選挙運動を台湾各地で取材し、関係者にインタビューした。馬英九総統(国民党)と蔡英文候補(民進党主席)の得票率を前回総統選との比較や地域別に詳しく分析し、説明した。世論調査のデータをとりあげ、大接戦と報じられながら大差がついた背景を述べた。

争点として中台間の「92年コンセンサス」をめぐる両候補の違いを解説し、馬英九総統が、蔡英文候補の中間路線を阻むくさびとして「92年コンセンサス」を使ったのに対し、蔡候補がコンセンサスを否定したため、対中政策への懸念が広がった点を蔡候補の敗因としてあげた。「92年コンセンサス」をめぐる日本メディアの報道には、中国側の解釈を伝えるだけのものがあると指摘し、台湾側の解釈や中国の立場をより詳しく報じるよう求めた。

総統選の意義として、台湾が事実上の国家として運営され、民主政治が機能する現状を維持したいという意思を人々が改めてメッセージとして表現した、と述べた。選挙は台湾の最強のソフトパワーであり、最高指導者を選挙で選ぶプロセスは中国大陸にも影響が大きい、と指摘した。


司会 倉重篤郎(日本記者クラブ企画委員 毎日新聞)

パワーポイント

http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/5bbca1d455cfee19846eac722b16f153.pdf

配付資料

http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/f55daa67448a3f0580d1c3f579cc5f43.pdf


会見リポート

台湾・馬氏勝利 最後の集会で確信

吉田 健一 (読売新聞国際部)

研究者が駆使する論理。ジャーナリストが重視する現場の肌感覚。この二つは真実に迫る車の両輪だと思うが、今回のゲストは、その双方を兼ね備えた研究者だった。質疑応答を含む90分の講演で、詳細なデータに現地で見た選挙集会の様子も交え、台湾総統選(1月14日投開票)を鮮やかに読み解いてみせた。


現職の馬英九総統(国民党)と野党・民進党の蔡英文主席の接戦と伝えられた今回の総統選。しかし、ふたを開けてみると、前回2008年選挙の220万票差には及ばなかったものの、それでも80万票という大差をつけての馬氏勝利だった。


「双方のものすごいラストスパートで土煙が上がり二頭の姿は見えなくなった」。小笠原さんは終盤情勢を競馬にたとえた分析をホームページに掲載し、1月12日に台湾入りした。だが、翌13日には馬氏勝利を確信したという。同日夜に桃園市で開かれた蔡陣営の最後の集会に足を運び、その盛り上がりに欠けた様を目の当たりにしたからだ。


空席が目立つ会場、使われないまま積み上げられたイスの山…。講演の中で私たちの前に映し出された写真は、確かにすべてを物語っていた。「最後の夜の集会は満杯にする必要があるのに、会場に入った瞬間、『冷えてるな』という印象を持った。蔡氏の負けは明らかだった」という説明には説得力があった。


また、実証的な分析には、思いこみも正された。中国は民進党の牙城の南部攻略のため、地域産品の購買団を頻繁に派遣。これが南部住民の投票行動に影響したのではないかと漠と考えていたが、得票状況の数字を基に、「購買団が国民党の得票に結びついた明らかな兆候は見あたらない」との指摘がなされた。


マクロな視点とミクロへのこだわり。この重要性を改めて胸に刻む貴重な機会となった。



ゲスト / Guest

  • 小笠原欣幸 / Yoshiyuki OGASAWARA

    日本 / Japan

    東京外国語大学准教授 / Tokyo University of Foreign Studies

研究テーマ:シリーズ研究会「権力移行期の世界」

研究会回数:0

ページのTOPへ