2011年09月30日 14:00 〜 15:30 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」児玉龍彦 東大アイソトープ総合センター長

会見メモ

福島第一原発事故による放射能汚染や除染について、児玉龍彦・東大教授が熱を込めて話し、質問に答えた。


内部被曝の危険性や、チェルノブイリ事故でわかった小児甲状腺がんや膀胱の前がん病変の知見をとりあげた。その上で、除染について「除染の原則は環境中の放射性物質を隔離して減衰を待つ」と指摘、住民・自治体職員が行う緊急除染、食品汚染、汚染土壌の処分などについて語った。

児玉さんは、時折、声を詰まらせながら、科学者の態度として①事実を正しく伝える②意味をわかりやすく伝える③解決策を強制しない④住民の自主的判断を応援する――の4点をあげた。また、セシウム汚染のわらが牛のえさになっていた事件で、農家を批判するマスコミ報道について、農家に責任があるのか、と反論した。各地で女性が放射線汚染に対して立ち上がり、行政を動かしている状況を「おかあさん革命」と表現した。行政の「いいことをやってやる」というパターナリズムを終わらせ、当事者主権の新しい社会を作る重要性を力説した。


司会 日本記者クラブ企画委員 瀬川至朗


東京大学アイソトープ総合センター

http://www.ric.u-tokyo.ac.jp/


会見リポート

被災者のため除染を進めよ

小川 明 (共同通信編集委員)

福島第一原発事故は大量の放射性物質で環境を汚染した。放射線の健康影響をめぐり、7月27日の衆院厚生労働委員会で参考人として発言し、その情熱と提言が注目を集めた。会見でも政府の対応を厳しく批判した。「環境中に出た放射性セシウムは広島原爆の20倍にも上る。現行の放射性物質の規制はこうした事態を想定していない。隔離して減衰を待つしかない」と長く困難な除染事業について語った。


チェルノブイリ原発後に周辺で子どもの甲状腺がんが増えた。その事実が証明されたのは患者が4千人出たあとだった。「これでは子どもや妊婦を守るのに役に立たない。今、子どもたちにこれ以上の被ばくをさせないことが科学者の責務」という思いが行動に駆り立てた。原発に近い福島県南相馬市の教育委員会の要請で、5月から週1回、幼稚園や小学校の放射線を測定して、緊急除染に取り組んだ。スーパーコンピューターによる創薬プロジェクト研究リーダーの医師として多忙な日々を送りながら、幼稚園や小学校の除染活動に関わっていった。


「自分の意見を強制せず、住民の自主的判断を応援する」という節度ある姿勢も貫く。放射線量は、校庭で減らせたが、教室の屋根の除染が困難だった。この緊急除染で「黒いインクが撒かれた中で、白い点ができ、除染できる確信を住民に与えた」と報告した。「現地の被災者は地震、津波、放射線に加え、無定見な政策の被害に遭っている。放射能影響予測のSPEEDIの結果がすぐ公表されないなどの情報統制が民主主義ではあってはならない」と指摘した。当事者主権と現場主義を繰り返し強調した。


重い沈黙が何度かあった。短い文章で伝えるのは難しい魅力的な会見だった。インターネットで会見の動画を見るようぜひ勧めたい。


ゲスト / Guest

  • 児玉龍彦 / Tatsuhiko KODAMA

    日本 / Japan

    東大アイソトープ総合センター長 / Radiosotope Center, The University of Tokyo

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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