2011年05月27日 12:00 〜 14:00 10階ホール
昼食会 ビルギチ 駐日トルコ大使

会見メモ

4月に着任したビルギチ・駐日トルコ大使が昼食会で、原発建設をめぐる日本との交渉、両国の自由貿易協定交渉の開始、トルコのEU加盟交渉などについて話し、質問に答えた。


≪「トルコは原子力エネルギーをあきらめない。日本もあきらめることはできないだろう。震災の教訓を生かし、日本は安全性が完璧な原発を作れると信頼している。震災後、中断しているトルコの原発建設のための交渉を日本と続けたい」≫


ビルギチ大使は、黒海沿岸のシノップで計画中の原発建設について、日本と3月末の合意をめざし交渉していたが、東日本大震災の影響で交渉が休止していると説明。他国からの交渉要請には応じず、日本との再開を待つ立場を強調した。「日本の文化全体への信頼は揺らいでいない。日本には教訓に基づき完全にする実績があるし、技術を信頼している。今年末までに交渉を再開すれば、2019年の稼働予定に間に合う。あと3,4ラウンドの交渉でまとまるだろう」と述べた。

日本との自由貿易協定交渉について、これまで日本側が交渉開始を希望していたが、トルコ側が欧州との関税同盟により交渉できないと答えてきた経緯を説明。日本とEUが自由貿易協定交渉を始めるため、トルコ側は妨げる要因がなくなった、という。トルコは交渉開始に関して話し合う用意があると日本側に伝え、事前協議のためトルコ代表団が7月、来日することを明らかにした。

トルコのEU加盟交渉が長引き、世論調査でトルコ国民のEU加盟支持が減っていると質問されると「試合を開始してからルールを変えるEUに国民はあきれているからだ。貿易や経済関係でトルコと欧州の関係は深く、この現状は無視できない。トルコは交渉を進める」と述べた。


司会 日本記者クラブ企画委員 脇 祐三(日本経済新聞)


在日トルコ共和国大使館のホームページ

http://www.turkey.jp/jp/embassy.htm


会見リポート

「戦略的位置」生かし高成長

宇田川 謙 (共同通信外信部次長)

欧州や中東、北アフリカなどをつなぐ位置にあるトルコ。周辺地域で「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が拡大する中、平和と安定を目指し、「ゼロ・プロブレム外交」を展開、国際政治での存在感を増している。


ビルギチ大使が今回、強調したのは、むしろ地域や世界の経済におけるトルコの「戦略的な位置」だった。「イスタンブールから飛行機で4時間の範囲に50カ国以上が存在する。総人口は15億人以上、市場規模は25兆ドルを超える」。こうした環境の下、トルコはここ10年ほどで中東・アフリカに対する輸出の割合を急速に伸ばしたという。世界経済危機からいち早く立ち直り、高い経済成長率も達成した。


EU加盟交渉は思うようにはかどらないが、「トルコは欧州の歴史の中で重い存在。未来においても否定できない」と交渉を進める姿勢を維持し、貿易や経済協定などを通じて「EUとの関係は深く進んでおり、戦略的な見解を持って考えるべきだ」と強調。異なる背景を持つ地域を結びつける役割を果たしながら、政治・経済の両面で、影響力の拡大を図るスタンスを明確にした。


一方、日本との関係はどうなのか。シノップの原発建設計画については、日本の技術を信頼し、交渉を続けたいと明言するが、経済全般においては「貿易量が少なく、満足からほど遠い」というのが、大使の率直な思いだ。日本からの直接投資は全体の1%未満。日本が新興国へのインフラ輸出を打ち出した今こそ、「両国関係の拡大が望ましい」と訴えた。


世界経済のけん引役は、中国やトルコなどの新興国に移った。世界経済における変革の嵐の中、日本は、周辺国や新興国とどのような関係を築いていけるのか。大使の言葉は、今後の日本の外交や、国際社会での「戦略的な位置」に対する問い掛けのようにも聞こえた。


ゲスト / Guest

  • ビルギチ / Abdurrahman Bilgic

    トルコ / Turkey

    駐日大使 / Ambassador

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