2011年04月21日 14:30 〜 15:30 10階ホール
グリアOECD事務総長 記者会見

会見メモ

OECD(経済協力開発機構)のグリア事務総長が記者会見し、対日審査報告書2011年版を発表し、東日本大震災後の経済見通しについて説明した。


≪「日本が大震災の問題を克服すると確信している。影響は限定的で対処可能だ。メッセージが必要であり、シグナルを出せばマーケットは信認する」≫


会見には、ランドル・ジョーンズ OECD経済局日本・韓国課長、Mr. Randall Jones, Head of the Japan/Korea Desk, Economics Departmentとルイス・エチャバリOECD原子力機関事務局長、Mr. Luis Echavarri, Director-General, OECD Nuclear Energy Agencyも出席し、質問に答えた。

グリア事務総長は、地震と津波の被害額はGDP比3%ないし5%にあたる16兆円ないし25兆円と見込まれ、阪神大震災の9.6兆円と比べても日本にとって戦後最悪の災害だったと述べた。しかも、阪神大震災当時の政府債務はGDP比86%、財政赤字はGDP比5%以下だったのに、現在はそれぞれGDP比200%とGDP比9%に増大しており、復興費支出と財政状況が日本の重大なリスクになると懸念を示した。地震以前からの課題である財政赤字、債務、教育、雇用、高齢化などの問題に取り組む必要性も指摘した。その上で日本には大震災を乗り越える能力があると強い信頼感を表明した。

復興財源として消費税引き上げについて質問されると、日本の消費税は欧州諸国の平均20%に比べると低く、引き上げる余地はあるとの認識を示し、先進国の中では高い法人税を引き下げることも可能だ、と付け加えた。

また、ジョーンズ日本韓国課長は、すでに日本は効率の高い小さな政府であり政府支出の削減は難しい、と述べた上で、消費税率を1%引き上げればGDP比0.5%の歳入増が見込まれるので、もし地震被害額に相当するGDP比5%の歳入増をはかるなら消費税率は10%の引き上げが必要となる、と説明した。


OECD東京センターのホームページ 対日審査報告書概観(日本語)も掲載

http://www.oecdtokyo.org/


司会 日本記者クラブ企画委員 小此木 潔(朝日新聞)


会見リポート

消費税20% 知日派の愛のムチ

藤澤志穂子 (産経新聞経済本部)

これまでの来日はプライベートを含め60回以上という知日派。今回の来日は日本経済の現状や見通しを示す、1年半に1度の「対日経済審査報告書」発表が目的で、東日本大震災の発生を受けて急きょ、内容を見直した。その結果、復興財源も必要となり、財政状況がますます厳しくなるばかりの日本に対し、「消費税20%相当への引き上げが必要」と厳しい条件を突きつけた。


報告では、震災による日本経済の落ち込みは「リーマン・ショック後よりは緩やか」と分析。2011年後半から復興需要が伸び、11年の実質経済成長率は0・8%、12年は2・3%と予測した。


一方、公的債務残高が国内総生産対比で200%に達する財政状況で、債務圧縮はプライマリー・バランスの均衡だけでは不十分と、消費税引き上げに言及した。「日本は法人税率が世界でも有数に高いが、消費税は欧州の16~26%に比べ低い」と主張。経済成長と財政再建の両立には、経済にゆがんだ影響を与えにくい消費税を、年1%ずつでも段階的に上げるべきと強調した。


復興財源の確保では国内でも、消費税の引き上げ案が浮上してきた。ただ震災前は、高齢化社会に向け、社会保障費の財源確保が念頭に置かれていた議論だけに、復興財源と混同させることに慎重な意見もある。グリア事務総長の会見は、そうした議論に一石を投じた形となった。


会見にはOECDの日本担当者と、原子力担当者も同席、日本の復興と原発事故対応に協力を惜しまない姿勢を印象づけた。母国メキシコの外相時代には、1994年の通貨危機で金融支援の取り付けに奔走。後に財務相も務め、押しの強い精力的な行動派として知られる。「消費税20%」は、知日派ゆえの、日本に対する愛情の表れ、「愛のムチ」とみた。


ゲスト / Guest

  • アンヘル・グリア / Angel Gurria

    OECD

    事務総長 / Secretary-General

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