2010年11月11日 14:00 〜 15:30 宴会場(9階)
渡辺靖・慶応大学教授「日米中」14

会見メモ

米国の現場を歩き「アメリカン・デモクラシーの逆説」(岩波新書)を書いた渡辺靖・慶応大教授がシリーズ研究会「日米中」⑭で中間選挙が示した米国の新しい流れとオバマ大統領の今後を話した。


渡辺教授は共和党が勝った中間選挙について、1980年代のレーガン保守革命以来の保守の潮流がいまも強いことを示したと述べた。自由にとって政府は脅威と考える保守と、自由のために政府の介入が必要と考えるリベラルの対立が続く構図を説明した。「ティーパーティー」の今後に関連して、「支持した候補が落選したため、サラ・ペイリンにとってはいい日ではなかった」と語った。中間選挙後の米政治について、民主党がリベラル寄りになり、共和党の保守色が強まったため、ホワイトハウスと議会は協調ではなく対決型に向かう可能性を指摘した。2012年大統領選について、ミゼリー・インデックス(失業率とインフレ率の合計が10を超えると現職大統領は再選できない)を引用し、ブッシュ父のようにオバマ大統領が再選されない可能性もあることを指摘した。新著でアメリカの予測の難しさや、アメリカが持つ自己修正力に注目したことを振り返り、「アメリカが一目でわかる本でもないし、アメリカがダメという本でもない」と説明した。

司会 日本記者クラブ企画委員 会田弘継(共同通信)


岩波書店ホームページの渡辺靖「アメリカン・デモクラシーの逆説」

http://www.iwanami.co.jp/hensyu/sin/sin_kkn/kkn1010/sin_k554.html


会見リポート

トクヴィルの話を聞くような

伊奈 久喜 (日本経済新聞特別編集委員)

「オバマ大統領の再選の可能性は低い」。世界にとって最大の関心事でありながら、専門家が明確な予測を避ける問題に対し、リスクをとって、きっぱりと答えてくれた。

文化人類学者らしい、フィールドワークの手法でアメリカを歩き、幅広く、奥行きある、この国の社会を観察してきた結果なのだろう。根拠は要旨次のようだった。

ア メリカは依然として1980年のレーガン革命以来の保守潮流のなかにある。2008年のオバマ当選は70年代以前に強かったリベラル潮流への回帰を意味し ない。10年1月に連邦最高裁が企業による選挙広告に上限を設けないとの判決を出したのも、2年後の共和党有利説を補強する──。

では、だれが共和党の大統領候補になるのか。

08年にも出馬したロムニー前マサチューセッツ州知事が最有力と、これまた明解に述べた。ただし、ペイリン、ハッカビー両氏など、やはり2年前の名前にも言及し「来年9月以降に本格化する選挙戦でダークホースが出るかもしれない」と慎重論も。

ア メリカ社会を論じる学者は、多かれ少なかれ、アレクシス・ド・トクヴィルを意識しているのだろう。渡辺氏の近著の題名は『アメリカン・デモクラシーの逆 説』。170年以上前に書かれた名著「アメリカにおける民主政治」を連想させる。明快な語り口もトクヴィルの筆遣いに通じる。

学生時代は記者の仕事にも関心があり、某社外報部でアルバイトしたが、激務ぶりを見て無理と判断し、文化人類学者になったという。

だからか、雰囲気は学者より記者に近い。近著に触れて「(題名に)『逆説』とあり、しかも岩波書店から出ているので反米の本のように思われるかもしれませんが、そうではありません」と笑わせた。

ゲスト / Guest

  • 渡辺靖 / Yasushi WATANABE

    日本 / Japan

    慶応大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:日米中

研究会回数:14

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