2010年11月10日 15:00 〜 16:30 10階ホール
坂場三男・前駐ベトナム大使「大使に聞く」2

会見メモ

2010年9月に帰国した坂場三男・前駐ベトナム大使がシリーズ研究会「大使に聞く ベトナム」で、経済成長が続くベトナムの情勢や日本との関係について語った。

外務省ホームページのベトナムのサイト
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/vietnam/data.html

坂場氏は、まず、ベトナムという国の「かたち」について、2000年間戦争が続いた歴史であり、しかも国土で国民をまきこむ戦争­が続いた、と説明した。ベトナム戦争終結による南北統一からまだ35年で、統一のプロセスは進行中、とも述べた。その一方、出生­率が向上したのは1990年ごろからで、若い世代をベトナム版「団塊の世代」と呼び、ベトナム人の「楽観主義」にも触れた。ベト­ナムの経済成長率見通しは7.1%で、ASEAN諸国では最も高く、その背景に「政治的な安定」があることを指摘した。日本との­関係では、「戦略的パートナーシップ」が首脳間の共同声明でうたわれ、日本のODA供与はベトナムが最大であることも強調した。­南シナ海のスプラットリー(南沙)諸島、パラセル(西沙)諸島をめぐる中国との領有権紛争についても説明した。
坂場氏は現在、気候変動枠組み条約担当大使・イラク復興支援等調整担当大使。

司会 日本記者クラブ企画委員 西川孝純(共同通信)

会見リポート

真田 正明 (朝日新聞論説委員)

■賃金はまだ中国の半分以下
近年のベトナムの変貌ぶりには驚かされる。日本だけでなく、韓国や台湾企業が競うように進出し、高層ビルが林立する。古都やベトナム戦争の戦跡を巡る観光 客には、敵国だったはずの米国人も多い。社会主義政権による資本主義経済への開放という微妙な綱渡りをしながら、中国ほど矛盾が表面化していないように見 える。

今年9月まで現地でベトナム人と付き合っていた坂場氏の見方は、「なるほど」と思えるものだった。

①2000年の 歴史のほとんどは中国との戦いか内戦②歴史上、南北が一つの国だった期間はごくわずか。統一のプロセスはなお進行中③DNAの中に北への脅威認識が組み込 まれている一方、中国の文化的影響は強い④団塊はドイモイ以降に生まれた世代⑤世界でもまれな楽観主義⑥ゆるやかで圧迫感のない共産主義、などである。

権力闘争のない政権交代によって安定した政治が保たれ、今後も7%以上の高度成長が見込まれる。人々は勤勉で、賃金は中国の半分以下。石油、石炭、ボーキサイトにレアアースまである。

なにか投資の勧誘のようだが、財政と貿易の双子の赤字、通貨ドンの下落などの問題点も加味すれば、楽観6対悲観4ぐらいのバランスだそうだ。

東南アジア諸国連合(ASEAN)の中でも、統合の発展に最も熱心な国。南シナ海では中国との領有権問題を抱える。東アジアの地域統合や中国との付き合い方を考えるうえでも重要な国だ。

在留の邦人は届けのない人も含めた推定で1万5000人ほど。韓国人は7万人、台湾人は10万人以上いるそうだ。

原発や新幹線の輸出だけでなく、もっと付き合いを深めていい国である。

ゲスト / Guest

  • 坂場三男 / SAKABA, Mitsuo

    日本 / Japan

    前駐ベトナム大使 / Former Japanese Ambassador to VietNam

研究テーマ:大使に聞く

研究会回数:2

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