2010年10月25日 00:00 〜 00:00
ウィリー・ラム・元「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」中国担当編集者・国際教養大学教授

会見メモ

サウス・チャイナ・モーニング・ポストなどの中国報道で知られるウィリー・ラム(林和立)国際教養大学教授がシリーズ研究会「日­米中」⑬で中国の外交や政治について語り、質問に答えた。

米国のシンクタンクJamestown FoundationホームページにあるSenior Fellow, Dr. Willy Lamのサイト(英語)
http://www.jamestown.org/details/?tx_bzdstaffdirectory_pi...

ウィリー・ラム氏は胡錦濤政権の外交政策が、鄧小平時代の「目立たない」や江沢民時代の「平和的台頭」から、「核心的利益」に変­わったと述べた。しかし、この1年間で、中国外交は間違いを重ねたと指摘。指導部内部で「外交は成功していない」「中国は友人を­失っている」などと批判が出ているとの情報を明らかにした。指導部が政治改革を進めず、国民のナショナリズムに依存する傾向が続­くと、日中関係の改善は難しい、との見方を示した。米中関係については、将来、米国がイラクとアフガニスタンの戦争から手を引け­ば、中国を潜在的に第一の敵とみなす可能性があることを中国が恐れているとの認識を示した。

司会 日本記者クラブ企画委員 会田弘継(共同通信)
通訳 西村好美(サイマル・インターナショナル)

会見リポート

党指導部は価値観の「空白状態」

白石 徹 (東京新聞外報部)

ジャーナリストとして長年にわたって中国共産党、政府をウオッチしてきたラム氏の話は示唆に富み、いつもながら新たな視点を与えてくれた。共産党筋など確かな情報源に裏打ちされた発言は説得力がある。

天安門事件で数々のスクープを飛ばし、香港返還前はリベラルといわれた英字紙で、中国のインサイダー情報を書き続けたベテランだ。

ラム氏は8年ほど前に執筆した著書で、「胡錦濤や温家宝でさえ(中略)ナショナリズムを利用し、社会経済的な矛盾や国家的危機から目をそらさせる」と記した。5年前の春、今年10月の「反日デモ」は、残念ながらラム氏の予想を的中させた。

ラム氏は現在、党指導部が価値観の「空白状態」にあると指摘。共産主義や社会主義思想を捨て、ナショナリズムが中国を結束させる唯一のカードと思い込んでいると語った。

さらに、今年の中国外交は「失敗」の連続で、大きな間違いを犯したという。要約すると①米国に対し南シナ海を「核心的利益」と公言②韓国軍哨戒艦沈没事件で北朝鮮批判を避けた③尖閣諸島の領有権問題ではレアアース(希土類)輸出停止など経済制裁をちらつかせた④ノーベル平和賞の選考で、ノルウェー側に圧力をかけた─などだ。

党指導部は最近、今年の外交を総括し、批判を浴びたと明かす。「中国は強大になったが、新たな友人はつくれず、友人を失っている」との厳しい発言もあったとされる。

さて、次期最高指導者の地位を固めた習近平氏。習氏を筆頭格とする「太子党」は軍内で長らく影響力を保ち、数十人の高級軍人を送り出したという。習氏はもともと軍との関係が深く、12年の総書記就任後、中央軍事委員会主席になれば、外交や安全保障政策で軍の発言力はより高まると予想する。米中二大国のはざまで揺れる日本外交は、将来をしっかり見据えた戦略が求められる。

ゲスト / Guest

  • ウィリー・ラム / Willy Lam

    中国 / China

    元「サウス・チャイナ・モーニング・ポスト」中国担当編集者・国際教養大学教授 / a former editor of South China Morning Post,SCMP;Professor,Akita International Universitcy

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