2010年03月15日 00:00 〜 00:00
石川幸憲・在米ジャーナリスト「世界の新聞・メディア」5

会見メモ

石川幸憲氏(『キンドルの衝撃』著者) 2010.3.15

アメリカの新聞の部数と広告収入が落ち込み、タイム、ニューズウィークなどのニュース週刊誌も広告収入が減っている現状を説明し­た。その上で、従来の新聞や雑誌はメディアから読者へ情報が一方通行で流れ1対1でつながる「レガシー型流通モデル」と定義した­。ウェブの世界ではグーグルやヤフーの検索エンジンがメディアと読者を結びつけ流通の中心を占める「検索エンジンモデル」に一変­した。さらにリンクを張りめぐらすことでメディアがたがいにつながり、読者もたがいにつながる「リンク型モデル」を紹介。新聞が­ウェブ上で課金を始める試みについては、カネを払う読者だけとつながることになり、非ウェブの世界に戻るのではないかと疑問を示­した。その上で、キンドルやiPadの登場を「仮想書店主導型モデル」と命名した。読者はデジタル端末を通してメディアとつなが­るが、「メディアはデジタル端末=仮想書店を運営しないため、コンテンツプロバイダーでしかなくマイナーな存在になってしまう。­戦略がない」と懸念を示した。
石川幸憲さんはAP通信、Time誌記者を経て、米国ニュージャージー州在住のジャーナリスト。「キンドルの衝撃」は2010年­1月、毎日新聞社刊。

司会:広瀬和彦企画委員(テレビ東京)


会見リポート

新聞の特性に光明を見いだせるか

中村 陽子 (東京新聞文化部)

アマゾンなどの米資本が、電子書籍端末で本格的な日本展開の準備を進めるなか、出版業界全体が、浮足立っている。出版社の動きをまとめるため、関係者に取材したが、「黒船」に対する思いを質問するたび、逆に尋ねられた。「新聞社のほうこそ、先行きが見えないじゃないんですか」

石川幸憲氏は、すでに「キンドル」など電子書籍端末の好調が伝えられるアメリカでは、新聞社がどんな状況にあるのかを、歴史的経緯に重点を置いて解説。たった十年ほど前まで「殿様商売」だった新聞は、インターネット事業に「戦略もないまま」乗りだすことになった末、かつてない苦境に陥っている、とした。また、非ウェブ時代とは異なり、検索エンジンなど、情報流通の中心を占めた者が圧倒的優位に立つようになったことを指摘し、「新聞などのメディアは、単なるコンテンツプロバイダーでしかなくなった」と話した。著書『キンドルの衝撃』の中では、電子書籍端末での新聞記事の配信についても触れている。

では、こうした状況下で、日本の新聞業界は、どのような方向を目指すべきなのか。一時間強の講演だけでは、この難しい問いへの答えが、完全に出たとはいえない。だが、一足先に配信ビジネスが普及した音楽産業の変化に対する見解は、ヒントとなりえた。「配信と差別化できるのは、唯一、生のコンサート。実際にライブでしっかり歌える歌手だけが、生き残れるようになってきた」というものだ。

端末への配信によって、新聞記事がばら売りされるようになれば、その読まれ方も変わってゆくに違いない。「ラジオ、テレビと、新メディアが出てくるたび、新聞は危機だと言われてきた。そしてそのたびに、新聞の特性を生かして残ってきた」との言葉に、光明を見いだしたい。

ゲスト / Guest

  • 石川幸憲 / Yukinori ISHIKAWA

    日本 / Japan

    在米ジャーナリスト / Journalist in the U.S.

研究テーマ:世界の新聞・メディア

研究会回数:5

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