2007年02月26日 00:00 〜 00:00
鈴木透・慶応大学教授「アメリカの底流」3

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会見リポート

映画をネタに現代アメリカ論

中井 良則 (毎日新聞論説委員)

アカデミー賞発表の日にアメリカ映画の話をしてもらった。しかも、テーマはクリント・イーストウッドの硫黄島2部作。作品賞か監督賞をとっていれば、世界で最も早い受賞記念レクチャー?となるところだったが、惜しかった。

「立ったままの方がいいので」と座らずに1時間、話せば話すほど熱気が高まる。映画をネタに現代アメリカ論をこんなに展開できるとはおもしろい。

イーストウッド映画を読み解くキーワードは「神話の解体」「弱者への視点」そして「記憶の扉」だという。米兵の息子が父の思いと行動を探る「父親たちの星条旗」。洞窟に残された日本兵の手紙が見つかる「硫黄島からの手紙」。どちらも、封印された記憶を後世の人間がひもとく構図が同じだ。「星条旗」は栄光の伝説となった星条旗掲揚の神話を壊し、「手紙」は狂信的で野蛮な日本兵というステレオタイプを否定する。日本兵も米兵も家族こそ大事だったのに権力に利用される。敵と味方に共通点を探す映画だ。単純な二項対立の図式とは違う。

「『手紙』で初めてイーストウッドは国境の外に出た。この意義は深い。日本人の記憶をとりあげ、他者の立場を想う想像力の重要さを示した。これからのアメリカにとって『外部の目』こそ大事であり、アカデミー賞候補になっただけでも、この映画の価値が認知されたといえる。日本の映画人は『やられた』という感覚を持ってほしい」

イーストウッド主演・監督「ミリオンダラー・ベイビー」のフランキーと栗林忠道中将の共通点は「才能があるのにお払い箱」など映画好きなら、ふむふむ、とうなずく話が続出した。「慶大で一番おもしろい授業」と評判なのもわかる。

ゲスト / Guest

  • 鈴木透 / Toru,Suzuki

    日本 / Japan

    慶応大学教授 / Professor, Keio University

研究テーマ:アメリカの底流

研究会回数:3

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