2016年06月10日 13:00 〜 14:00 10階ホール
「Brexit」 野上義二 国際問題研究所理事長兼所長(元駐英大使)

会見メモ

Brexit

駐英大使を務めた野上国際問題研究所理事長が、EUからの離脱を問う英国の国民投票(6.23)を前に英国のEU離脱論の現状について話し、記者の質問に答えた。
司会 鶴原徹也 日本記者クラブ企画委員(読売新聞)


会見リポート

米大統領選より英国のEU離脱が心配

「アメリカ大統領選よりもイギリスのEU離脱の方が心配だ」。これが野上さんの講演時点での「率直な感想」だ。

 

なぜか。「大統領選(の勝者)はクリントンになる」と予測できるのに対し、イギリスは「残留か離脱か。動向は全く読めない。これからどう転んでいくのか全く分からない」からだ。つまり離脱の可能性があることが「心配」の種だ。

 

イギリスがEUから離脱すれば少なくとも短期・中期的にイギリスは「経済的デメリット」を被ることが「はっきりしている」。にもかかわらず残留派と離脱派が拮抗しているのは、「エコノミーvsエモーション」の構図になってしまっているからと言う。離脱派は損得勘定ではなく、感情に突き動かされている。道理は通じない。

 

富者vs貧者、エリートvs大衆、イングランドvsスコットランドといったイギリスが歴史的に内包してきた深い亀裂を国民投票は表出してしまった。「簡単に言うと、アイデンティティー・ポリティクスにはまってしまった」

 

これに世界的なポピュリズムのうねりが絡んでくる。「(アメリカ大統領選の)トランプにとってはメキシコからの移民は悪、モスレムは悪。イギリスの離脱派にとっては欧州が悪。そして、彼らは『ブリテンを再び偉大に』と主張する。トランプの『アメリカを再び偉大に』というスローガンと全く同調している」。問題はその偉大なはずの「ブリテン」、あるいは「アメリカ」の定義がないことだ。にもかかわらず情に訴えるアイデンティティーを唱え、主に大衆の支持を得ている。

 

世代間格差も明白だ。「イギリスが統合欧州に加わった1973年より前に生まれた世代は圧倒的に離脱派。73年より後に生まれた世代は圧倒的に残留派」

 

心配の種は尽きない。もしイギリスが離脱を選択した場合、「キャメロンは(首相を)辞める。だが、どういう内閣ができるか分からない」。離脱派は離脱の一点で野合しているにすぎない。離脱後の展望はない。EUとの経済関係のあり方も見通せない。EUと自由貿易協定を円滑に結べるのかは疑問だ。イギリスの自動車産業の中核にある日産、トヨタ、ホンダを中心に、中期的な生産のありようが描けない。「離脱後、3年から5年は不安定な状態が続く」

 

しかも、英国の離脱はデンマーク、フランス、ドイツ、オランダなどでも台頭している欧州懐疑派を勢いづかせる。そして、「EUの中がグズグズする。欧州は全体的に右と左に割れてきた。不安定になっている。イギリスの離脱が欧州政治に与える影響も非常に心配だ」。

 

統合欧州が既に魅力のある存在ではなくなってしまっている。それが問題の本質だと思う。


企画委員 読売新聞社編集委員 鶴原 徹也

ゲスト / Guest

  • 野上義二 / Yoshiji Nogami

    日本 / Japan

    国際問題研究所理事長兼所長(元駐英大使) / President, The Japan Institute of International Affairs (JIIA)

研究テーマ:Brexit

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