2016年02月15日 14:00 〜 15:30 10階ホール
杉本和行 公正取引委員会委員長 会見

会見メモ

杉本和行 公取委員長が会見し、記者の質問に答えた。
司会 安井孝之 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)


会見リポート

「市場の番人」 競争政策の意義を強調

廣瀬 千秋 (産経新聞編集委員)

公正取引委員会委員長に就任して、今年3月で3年。公取委の存在について冒頭、「新聞社会面の談合記事に(名前が)でてくるくらいで、あまり関心がないかもしれませんが」と断りながらも、競争政策の意義が増していることを、訥々ながら確固たるスタンスを述べた。

 

レジュメに「世界のGDP成長率」「日本経済の実質成長率と完全失業率」の経済指標を盛り込み、常に国内外の経済をにらんだ競争政策に取り組んでいることを説明した。そのなかで杉本委員長は、世界経済はシンクロ(共時性)している点を踏まえ、日本企業のなかにはイノベーション(技術革新)努力を怠り、産業構造が世界の下請け化しているのではないかと問題提起。公取委は「イノベーションできる環境を整備して、競争を確保していく」と強調する一方で、日本経済の現状に懸念していることもうかがわせた。

 

その懸念を端的に表したのが、何度か口にした「日本のガラパゴス化」。世界中でM&Aが増加傾向にある実情を踏まえ、一定のルール内で「企業の競争力が強くなるなら歓迎、競争回避するなら問題になる」と言明しながらも、「日本市場のあらゆるところでガラパゴス化して、国際競争に勝てずにじり貧になるのでは」と将来を不安視していたのには少なからず驚いた。

 

公取委のベースにあるのは、「競争なくして成長なし」。その競争すら日本経済には失われているのではないかとの指摘は、財務官僚として長年、日本経済をウオッチしてきたからこそ言える警鐘なのかもしれない。

 

今後の焦点のひとつは、競争法違反事件における制裁金の日本と米欧の格差。法人への制裁金額等を比較したグラフから、米欧における法人が日本における法人の10倍も払っている実態を示して、「米欧は企業存立を脅かすほどの強いコンプライアンス(法令遵守)がある」と指摘した。

 

日本は数回にわたる独禁法強化改正によって課徴金制度を充実させてきたが、課徴金算定率は製造業や小売業、卸売業で別々に規定されているのが実態。多種多様な分野を手がけている企業の増加や持ち株会社化、グループ経営化が進んでいることも踏まえ、欧米との課徴金格差是正に向けて、「研究会を設置して検討してもらう」と前向きな姿勢を示した。

 

やや固いイメージの公取委を意識してか、大相撲にたとえて「関取が8勝7敗と7勝8敗ばかりでは成り立たない。ガチンコが基本」と、「市場の番人」としての基本姿勢を披露したが、むしろ日本企業に一層のイノベーションを求め、世界でのガチンコ競争を促したメッセージのように聞こえた。

 

日本記者クラブのゲストブックへ認めた一筆は「疾風勁草」。困難の中にあるのは公取委なのか、杉本委員長自身なのか、あるいは日本経済なのか分からないが、意味を問われ、「切り開いていくため、みんなで考えていかなくては」と締めくくった。


ゲスト / Guest

  • 杉本和行 / Kazuyuki Sugimoto

    日本 / Japan

    公正取引委員会委員長 / Chairman, Japan Fair Trade Commission

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