2009年06月03日 00:00 〜 00:00
北川誠一・東北大学大学院国際文化研究科教授

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会見リポート

アルメニア 民族の歴史を再構築

石川 陽平 (日本経済新聞国際部)

アルメニアが日本記者クラブで研究テーマになったのは初めてではないだろうか。北川教授は「ノアの方舟伝説」の謎解きで、まず遠い小国を身近に引き寄せ、ディアスポラ(民族離散)やジェノサイド(大量虐殺)の運命を背負った民族の歴史を巧みに再構築してみせた。

首都エレバンから望むアララト山はノアの方舟がたどり着いたとされる神聖な山だが、10世紀頃まではいくつかの別名で呼ばれ「アララト山とは見なされていなかった」という。中世の伝説を引用しつつ「アララト山」へ歴史的な転換に至った道筋を読み解く。ノアの子孫を自負するアルメニア人の系譜も興味深い。

初めてキリスト教を国教とした背景や商人として世界を渡り歩いた経緯も叙述された。「放浪のアルメニア商人」について特に興味を引いたのは、最初のアルメニア人の職業が軍人であり、キャラバン(隊商)に転化していったとの説だ。「キャラバンでは武力と商人は切っても切れない関係にある」と指摘、示唆に富む軍人起源説を展開した。

北川教授が配布したアルメニアの地図には、1919年に第一次世界大戦終結のために開かれたパリ講和会議でアルメニア側が主張した「自国領土」が点線で示されている。現在の小さな国土に比べ、10倍ほどの広さがあろうか。ジェノサイド論争を抱えるトルコの東部やアゼルバイジャンとの紛争地域のナゴルノカラバフも含まれる。両国に挟まれ、激しい摩擦を抱えてきた厳しい地域情勢が見て取れる。

5年ほど前、エレバンを訪れ、ジェノサイドの犠牲者を悼む記念碑や博物館を見て回った。アルメニアでは今年に入り、トルコとの国交回復に向けた大きな一歩が踏み出された。この影響を受けナゴルノカラバフ問題も動き出す気配が出ている。アルメニアの歴史を見つめ直す良い機会になった。

ゲスト / Guest

  • 北川誠一 / Seiichi KITAGAWA

    日本 / Japan

    東北大学大学院国際文化研究科教授 / Professor, Graduate School at Tohoku University

研究テーマ:ユーラシア

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