2016年12月15日 13:30 〜 15:00 9階会見場
李燦雨 帝京大学講師 研究会「北朝鮮の核とミサイル」④

会見メモ

謎だらけの北朝鮮経済を猛スピードで解説した。圧巻は食糧配分のチャート。農民800万人に現物配布され、都市労働者1100万人と軍人・公務員・教員ら600万人に国家がどう分配するか。「600万トンの生産だと輸入なしで解決できる。食糧危機はない」と読む。

帝京大学教員HP

 

司会 山本勇二 日本記者クラブ企画委員(東京新聞)


会見リポート

制裁下でも食糧は増産

山本 勇二 (企画委員 東京新聞論説委員)

核とミサイル開発を加速する北朝鮮は、国際社会の制裁にどこまで耐えられるのか。李燦雨(り・ちゃんう)帝京大講師は食糧事情と市場での物流を元に、次のように分析した。

 

食糧は増産傾向にあり、コメの市場価格もこの3年間安定している。当局が「圃田担当制」を導入して、耕作単位が家族農に近づいた。収穫が目標を上回れば、農民が自由に処分できる。その結果、生産意欲が高まり収穫が増えた。もはや食糧難の危機は過ぎたとみてよい。

 

今、北朝鮮では食べ物や衣服、生活雑貨のかなりの部分が市場で取引される。農業と同様に流通部門でも、当局が住民の自主性をある程度認めたことで、民生経済は改善されている。ただ、首都平壌と地方との格差は深刻だとの報告があり、本格的な経済発展に結びつく外資の導入も進んでいないようだ。

 

貿易では韓国との交易が今年から全面中止され、全体の9割が対中貿易だ。国連安保理の新たな制裁決議により、主力産品である石炭の輸出に上限を科した。中国は当面は制裁決議を実行し、貿易統計上は石炭輸入が減少しよう。しかし、中国は近隣外交戦略で朝鮮半島の安定を優先させるので、制裁を強め北朝鮮を追い込むことはしないだろう―。

 

北朝鮮の暮らしと言えば、経済破綻だとか、食糧や日用品の欠乏といった脱北者の証言が多く紹介される。李氏は国内総生産(GDP)や食糧生産、貿易などについて、国連機関や中国、韓国の統計を比較、検討して使用した。さらに中国などでの現地調査を通じて知り得た北朝鮮の食糧事情や市場での物流も踏まえて、脱北者証言とは異なる経済の実情を紹介した。限界はあるにしても、データを重視した分析は傾聴に値しよう。


ゲスト / Guest

  • 李燦雨 / Lee Chanwoo

    帝京大学講師 / Deputy associate professor, Teikyo University

研究テーマ:北朝鮮の核とミサイル

研究会回数:0

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