2016年10月07日 18:00 〜 19:50 10階ホール
試写会「湾生回家」

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会見リポート

日台関係 ひとつの物語 強制送還された日本人の里帰り

高井 潔司 (読売新聞出身)

何とも感情が揺さぶられる映画である。「湾生」とは台湾生まれ、台湾育ちの人々を指す。戦前、植民地下の台湾に生まれた日本人の湾生は20万にも上る。敗戦によって、ほとんどの湾生は引き揚げを余儀なくされた。戦後70年余を経た今、望郷の念にかられた湾生たちが、それぞれの思いを抱きながら、ふるさと「台湾」を再訪する。その姿をドキュメンタリータッチで描いたのが、この作品だ。

 

湾生たちは敗戦後、1人当たり千円(当時)とわずかな食糧、リュックサック2つ分の身の回り品だけの携行が許され、日本に帰国した。敗戦後の日本は混乱と極貧のどん底にあった。多くの湾生は日本の生活を経験したこともなければ、頼る親族さえなかった。湾生たちの苦労は想像に難くないが、それだけ台湾での豊かで楽しい日々に思いが募った。

 

「広島にやっと落ち着き、神戸までコメの担ぎ屋をやったことがあった。だが警察に捕まってしまった。それでやくざの世界に入ったこともあった」と、ある湾生は涙ながらに回想する。70年ぶりの「回家」(帰省)に、当時の友人らが歓迎してくれた。彼の口からいつの間にか、「台湾語」が飛び出していた。別の女性は「日本にも友達はたくさんいる。でも日本ではいつも異邦人」「日本では病気がちだが、台湾に戻ると元気になる」と、台北で明るく語った。

 

作品は台湾で評判を取り、台湾の映画賞にもノミネートされた。試写会でもらったパンフレットには「温かく迎え入れた台湾のこころ」「日台の絆の原点」とあった。

 

だが、やはり植民地での物語。映画のような感動話ばかりではあるまい。ところどころに見える冷たい視線にも気づくべきだろう。ましてや他の植民地、占領地で同じ物語を期待してはなるまい。


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