2016年07月06日 15:30 〜 17:00 9階会見場
「BREXITとEUの未来」③ハンス・カール・フォン・ヴェアテルン駐日独大使/ティエリー・ダナ駐日仏大使

会見メモ

英国のEU離脱決定を受け独仏の大使が会見し、記者の質問に答えた。
司会 福本容子 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)
通訳 ベアーテ・フォン・デア・オステン(駐日ドイツ大使館通訳部長) /西村好美(サイマル・インターナショナル)

左からダナ仏大使、フォン・ヴェアテルン独大使


会見リポート

「同床異夢」を克服できるか ―独「欧州―英国の深い絆は継続」仏「早急にEU離脱手続きを」

英国民投票ショックの余韻さめやらぬ中開かれた3つの大使記者会見。

 

トップバッターはティム・ヒッチンズ英大使。「欧州諸国と親密な関係を維持する」「日本企業の投資促進と保護に全力を尽くす」。まず強調したのが、日本を襲った懸念を払拭すべく「これまでどおり変わらない」ということ。国民投票前4月4日のクラブ会見では、「英国はEUに残留する方が、より強く安全で繁栄する」「世界的な不確実性を前に離脱は無謀」と語った大使だったが、そこは歴戦の外交官だ。

 

さらに、世界5位の経済力、高い水準の高等教育等々、英国の「魅力」や「強み」を繰り返した後、「離脱後は規制緩和がしやすくなり、ビジネスにとって有利に働くだろう」と「離脱の利点」にも踏み込んだ。

 

離脱に向けたEUとの交渉については、「迅速さより正しい結果を出すことが大切」と拙速を避けるべきことを強調し、「英国がEU単一市場にアクセスを保つだけでなく、EUがさらに自由貿易にコミットした開かれた場所になることが重要」と、国益をしたたかに主張することを忘れなかった。

 

対するハンス・カール・フォン・ヴェアテルン独大使とティエリー・ダナ仏大使による共同会見。独大使は「今やテロなどグローバルな課題に一国だけでは対処できない。離脱派の主張とは裏腹に、英国は対処能力を失った」と厳しい評価。仏大使も「英国の友人が離脱決定するとは予想もしていなかった。衝撃を受け、裏切られたという気持ちだった」と率直に語った。

 

英国抜きでEU統合が前進するとの見方にもくみしない。両大使とも「補完性原則」に言及し、今はいったん立ち止まり、EU、国家、民意の関係を再考すべきとの認識を共有していた。

 

ただ、今後の英EU交渉に関する発言では立場の違いを見せた。独大使が「英と欧州のパートナーシップと深い絆は継続する」とやや融和的な姿勢だったのに対し、仏大使は「国民の決定が示された以上、できるだけ早く手続きを進めるのが望ましい」と明言し、強力なEU懐疑派「国民戦線」を抱える国内事情を垣間見せた。

 

また、独大使が「日本企業、政府は、日本の利益をはっきり英国、EUに伝えるべきだ」と述べたのは、独産業界に英国との自由貿易体制の維持を求める声が強いのを踏まえ、同じ立場の日本にもからめ手からの支援を促したのだろう。仏大使はこの点、「日本企業が南北アメリカを視野に入れるならロンドンに拠点を残せばいいし、EU中心なら移せばいい」と素っ気なかった。

 

両会見の間の日程で行われたのが、ヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラEU大使会見。「われわれは安全、平和、和解など歴史的な成果を誇りに思っている。統合への決意やコミットメントを過小評価しないでほしい」と原則的立場を繰り返した。

 

各者各様だが、一流外交官たちによる老巧な弁舌を随分楽しませてもらいました。ただ、平和や和解の理念をEUに託した独仏と、あくまで単一市場として捉えてきた英国との、国家理念の次元にまで至る違いはやはり大きいと感じる。

 

ユーロ危機では北と南、難民危機では東と西のEU加盟国間で、大きな亀裂が走った。それらはかろうじてつなぎ留められているが、果たしてEUは新たな危機に結束して臨めるのかどうか。欧州発の危機がグローバルな危機に直結する時代となった今、われわれも心して報道を続けねばなるまい。

 

読売新聞社編集委員 三好 範英

 

(この会見リポートは、シリーズ「BREXITとEUの未来」3会見の統合版です)


ゲスト / Guest

  • ハンス・カール・フォン・ヴェアテルン駐日独大使/ティエリー・ダナ駐日仏大使 / Hans Carl von Werthern, Ambassador to Japan, Germany / Thierry Dana, Ambassador to Japan, France

研究テーマ:BREXITとEUの未来

研究会回数:3

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