2016年06月17日 10:00 〜 11:30 10階ホール
「消費増税再延期と日本の財政」吉川洋 財務省財政制度審議会会長

会見メモ

財務省財政制度審議会会長を務める吉川教授が、消費増税先送りが及ぼす影響などについて話し、記者の質問に答えた。
司会 倉重篤郎 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

静かに激しい「通奏低音」

井町 知致 (時事通信社経済部)

抑えた語り口が、かえっていら立ちを際立たせた会見だった。財政制度等審議会の会長として、というよりは、日本を代表する経済学者、知識人として、今回の消費税率引き上げの再延期判断について発言を残すという気概や責任感が、吉川教授の言葉を借りれば「通奏低音」のように伝わってきた。

 

再延期判断が「間違っている」という理由を、あらゆる切り口で語ってみせた。2012年の3党合意については「日本の政治が示した見識」と高く評価したが、消費増税の安易な先送りで、格差問題の歯止め役を担う社会保障制度が立ち行かなくなることへの危機感を繰り返し表明した。消費税は単なる税金の支払いではなく、社会保障という将来サービスの買い物をしているとの説明は、負担を先送りして、短期的な景気対策に堕してきた政治家と国民への警告にほかならない。

 

今さらと言われるかもしれないが、日本が議長国を務めた伊勢志摩サミットの場で、安倍首相がリーマン・ショック前後の経済状況と比べた議論を持ち出して増税再延期の布石とした点についてもあえて苦言。「言った言わないという見苦しい話まで出てきた。政策決定のプロセスとして問題だ」と最大限の不愉快さをにじませた。

 

質疑応答では、安倍政権が増税再延期に加えて補正予算を編成する方針を示していることに関して、「完全雇用でG(政府支出)を増やす教科書はない。財政の矢は飛んでいく方向がおかしい」と正面から皮肉った。

 

国の一般会計歳出はリーマン・ショック以降、毎年100兆円前後に張り付いたまま。予算膨張と負担の先送り。分配に偏り、対立軸すら示せない政治への焦燥を共有する人は少なくないと思いたい。


ゲスト / Guest

  • 吉川洋 / Hiroshi Yosikawa

    日本 / Japan

    財務省財政制度審議会会長(立正大学教授)

研究テーマ:消費増税再延期と日本の財政

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