2016年06月09日 15:00 〜 16:30 9階会見場
研究会「パナマ文書」②調査報道とメディアの役割 奥山俊宏 朝日新聞編集委員 澤康臣 共同通信特別報道室次長

会見メモ

「パナマ文書」プロジェクトに参加した2人のジャーナリストが、「国際調査報道ジャーナリスト連合」(The International Consortium of Investigative Journalists=ICIJ、本部ワシントン)やパナマ文書報道の経緯などについて話した。プロジェクトに参加したイタリア人のフリージャーナリストシッラ・アレッチ(Scilla Alecci)氏(在米ジャーナリスト)、アレッシア・チェラントラ(Alessia Cerantola)氏も発言した。
司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

前例のない記者連携が成果を生んだ

青島 顕 (毎日新聞社社会部)

租税回避地(タックスヘイブン)の取引を暴露した「パナマ文書」には、日本人・企業名が約400記されていた。分析したのは日、米、イタリアに住む4人の記者だった。暗号メールを使って連絡を取り合い、朝日新聞、共同通信の2人が「胸襟を開いて協力した」。前例のない取材となった。

 

6月9日の研究会には、4人の「日本チーム」が、海外に住む2人を含めて勢ぞろいした。

 

メールに「興味はあるか」

 

発端は昨年夏、米国在住のイタリア人フリー記者、シッラ・アレッチさんが、かつてインターンをした「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」から連絡を受けたことだ。早稲田大に留学し、日本語が堪能なアレッチさんへの依頼は「パナマ文書」プロジェクトの日本担当になることだった。イタリアに住む日本通のフリー記者、アレッシア・チェラントラさんと2人で日本の政治家、大企業、暴力団関係者の名をひたすら探した。

 

今年に入って日本人2人が加わった。ICIJ事務局が1月、奥山俊宏・朝日新聞編集委員にメールで参加を依頼。2月にはアレッチさんが旧知の澤康臣・共同通信特別報道室次長にメールを送った。「内容は詳しく言えないが、興味はあるか」

 

4人の中でICIJの会員は奥山さん1人だ。朝日新聞は奥山さんを窓口に8年前にICIJと接触し、協力関係を築いた。奥山さんによると、2008年に上司から米国で台頭してきた非営利調査報道機関の取材を命じられ、通訳を伴ってICIJ事務局長らに面会した。奥山さんは翌年、アメリカン大に留学。ICIJと親組織の「センター・フォー・パブリック・インテグリティー(CPI)」を創設したチャールズ・ルイス教授の指導を受けたという。奥山さんは11年にICIJ会員となり、朝日新聞も12年に提携したICIJの記事を掲載してきた。

 

情報公開の壁高い日本

 

奥山さんはICIJについて「内部告発から記事を書き、それが内部告発を生んでパナマ文書報道につながった。ウィキリークスとは違い、入手したもの全てをぶちまけることはしない。公益性を考え責任ある報道をする」と分析した。

 

さらに、奥山さんは日本の記者に、外に目を向けることを呼びかけた。「海外には調査報道のコミュニティーがあり、大会には記者が多数集まる。海外に出向いて加わるだけでも存在感が増す」と話した。

 

共同通信の澤さんは調査報道の課題を挙げた。特に、日本で未整備の公文書を使う取材環境の変革を訴えた。情報公開法は行政が文書を「不開示」にできる範囲が広い。「個人情報」の壁も高い。さらに、欧米では調査報道の基本資料となる裁判記録の公開も限定されているからだ。

 

今回のプロジェクトは、記者が社を越えて協力したことが最大の特徴だ。澤さんによると、困難な対象を奥山さんと一緒に直撃することもあったそうで「競争と協力のバランスをどう取るか、何のための競争か考える機会になった」と話した。

 

調査報道でライバルと協力していけるのか。澤さんと奥山さんは日ごろから取材方法の勉強会を開いてきており、信頼関係があったからこそできたのだろう。筆者には他社と調査報道で協力取材をするイメージがまだ湧かない。海外ではなぜ可能なのか。取り決めを結ぶ必要はあるのか。課題が次々に浮かんでくる。

 

日本短期滞在中にこの研究会に顔を出したチェラントラさんは「調査報道、記者に国境はありません」と連携の強化を呼びかけた。


ゲスト / Guest

  • 奥山俊宏 朝日新聞編集委員 / 澤康臣 共同通信特別報道室次長 / Toshihiro Okuyama, Asahi Shimbun / Yasuomi Sawa, Kyodo News

    日本 / Japan

研究テーマ:パナマ文書

研究会回数:2

ページのTOPへ