2016年06月03日 15:00 〜 16:30 10階ホール
研究会「リオ五輪を控えどこへいくブラジル-大統領弾劾裁判に発展した政治経済情勢」 堀坂浩太郎 上智大学名誉教授

会見メモ

堀坂浩太郎 上智大学名誉教授が、ジルマ・ルセフ大統領の職務停止と弾劾裁判に発展したブラジルの国内政治状況について解説し、記者の質問に応えた。
司会 中井良則 日本記者クラブ専務理事


会見リポート

無政府的に見えるが着実な未来に歩むブラジル

伊藤 千尋 (朝日新聞出身)

8月5日の開催まで間近となったリオデジャネイロ五輪。すでにブラジルの全国300都市を回る聖火リレーは始まっている。ところが現場は「それどころではない情勢」だ。

 

かつてブラジルに駐在して日本経済新聞社のサンパウロ支局長をし、その後は上智大学で研究・教育に携わってきた、わが国のブラジル研究の第一人者が現状を読み解いた。「元記者」らしく、3月に現地を訪問して最新の情報も持つ。

 

「それどころではない」理由は①経済危機②感染症ジカ熱の脅威③現職大統領の弾劾④秋の地方選挙に向けて選挙運動がオリンピック開催時期と重なる、と4つもある。

 

好調だった経済が昨年、暗転した。人口2億人のこの国で1100万人の失業者を抱える。失業率は10%を超えた。今年はさらに悪化している。2年前の選挙で有権者が真っ二つに割れたあと、初の女性大統領をやめさせようとする「ルセフ降ろし」旋風が渦巻く。きっかけは汚職の発覚だ。民主化を担った政党が汚職まみれだった。

 

能吏と評判だったルセフ大統領だが、今や「聞く耳をもたない」と反発を買っている。5月に大統領弾劾法廷の開設が決定し、テメル副大統領の暫定政権が発足した。弾劾が成立すれば大統領は辞任するが、ルセフ氏は弾劾の動きをクーデターになぞらえて徹底抗戦の構えだ。巻き返して留任する可能性もある。

 

混乱もあるが、長い目で見れば良い方向に向かっている。1980年代に軍政から脱却した新生ブラジルは中間層の拡大、国民参加の政治、経済の自由主義化の道を着実に歩んだ。汚職は以前からあるが、法で裁く意識が根付いてきた。皆保険など社会的な政策を進め民主主義のベースをつくりあげたし、市民社会も形成され、社会は底上げされた。もはや軍事クーデターは考えにくい。

 

日本ではわかりにくい事情を丁寧に解きほぐしつつ、現地のジャーナリストの発言を紹介した。「他の国民から無政府的に見られるかもしれないが、民主主義的に決定する方式を国として選んだ。未来はすでに書き下ろされている」。自身が大いに共感していること、そして長くかかわってきたこの国への愛情が言葉の端々に感じられる。

 

質疑応答で強調したのがブラジルの独自の道だ。BRICSと一口に言われたが、ブラジル自身はこのように言われることを嫌った。中南米地域で左派の退潮が言われるが、ブラジルの労働者党政権は社会的な施策を進めたのであって、ベネズエラやボリビアなどの社会主義を指向した国とは色合いが違う。

 

内政の危機と同時並行して行われるリオ五輪。開催国としてブラジルはメダルの数でオリンピックは10位を、パラリンピックは5位を目標とする。「多民族国家にふさわしいイベントになる」、そしてブラジルを「21世紀への挑戦への思いを秘めた国」と表現した。


ゲスト / Guest

  • 堀坂浩太郎 / Kotaro Horisaka

    日本 / Japan

    上智大学名誉教授 / , Professor Emeritus, Sophia University

研究テーマ:リオ五輪を控えどこへいくブラジル-大統領弾劾裁判に発展した政治経済情勢

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