2016年06月02日 15:30 〜 16:30 10階ホール
「熊本報告 エコノミークラス症候群対策」榛沢(はんざわ)和彦医師(新潟大学)

会見メモ

中越地震以来エコノミークラス症候群対策に取り組んでいる榛沢和彦医師が、熊本地震の被災者の状況を報告し、記者の質問に応えた。
「避難生活の改善に有用」とする段ボール製簡易ベッドを会見場に持ち込み、メーカー担当者が説明した。
司会 川村晃司 日本記者クラブ企画委員(テレビ朝日)


会見リポート

「雑魚寝形式」の見直しを

木村 彰 (日本経済新聞社編集委員)

新潟県中越地震(2004年10月)と東日本大震災(2011年3月)で被災者のエコノミークラス症候群(肺血栓塞栓症)の診断・治療と予防に当たり、熊本地震(2016年4月)でも被災地入りして活動している。

 

エコノミークラス症候群は、ふくらはぎの筋肉の深部静脈にできた血栓が血流に乗って肺に至り詰まらせる静脈の疾患だ。長時間座り続ける旅客機や長距離バスなどの乗客が発症することで知られ、国内では新潟県中越地震で車中泊の被災者に多発して注目された。地震の直接的被害を逃れた人がその後健康を害する代表的な「2次健康被害」だ。

 

血栓ができるのは、①同じ姿勢を続けることで血流が滞る ②水や食糧不足で脱水状態となり、血液が固まりやすくなる ③下肢に過重がかかるなどして血管の内皮が傷つく――のが原因だ。過去の調査では、一般の人に検診を行うと約4%から無症状の血栓が見つかっており、これが車中泊などで原因で大きくと考えられる。ただ、血栓がある人のうち、肺を詰まらせるなど重症化するのは1000人に1人。だから、エコノミークラス症候群で1人死者が出たら、その背後に1000人以上の脚に血栓を持っていることが推測できる。車中泊の人はそうでない人の約4倍血栓ができやすく、車中泊でも避難所でも3泊以上すると血栓リスクが高まるという。

 

熊本地震では、避難所となるべき施設の多くが壊れて使えず車中泊が増えたことや、水道が止まったり物流が滞ったりして水・食料が不足するなど血栓ができやすい条件が重なった。そこで榛沢医師らは被災地で、避難所や車中泊をする被災者にエコー検査や血液検査を受けてもらい、エコノミークラス症候群の予防に取り組んだ。

 

流れはこうだ。血栓ができやすいふくらはぎのヒラメ静脈を中心にエコー検査装置(プローブ)を当て、血栓が見つかった人は、続いて採血をして血液の性状を調べる。D-dimerという指標で「2」以上だと高リスクなので病院を受診してもらう。2未満の人は弾性ストッキングをはいてもらうとともに、こまめな水分接種や運動を勧める。弾性ストッキングは血栓ができないようにするとともに、できた血栓の治療にも使える。

 

日本では、災害時に学校の体育館など公共的施設に大量の被災者を受け入れるのが一般的で、一人ひとりのスペースは狭く床に横たわる「雑魚寝形式」が主流だ。欧米は、軍隊が使うような強固な大型テント内にベッドを備えるのが標準。欧米に倣ってテント+ベッドとし、生活環境を改善することが、エコノミークラス症候群を防ぐ意味でも重要だ、と榛沢医師。簡単に組み立てられる段ボール製の簡易ベッドが開発されており、普及が望まれる。


ゲスト / Guest

  • 榛沢和彦 / Kazuhiko Hanzawa

    日本 / Japan

    医師(新潟大学) / Doctor, Niigata University

研究テーマ:熊本報告

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