2016年05月13日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「南シナ海の領有権問題」河野真理子 早稲田大学法学学術院教授(国際法)

会見メモ

早稲田大学の河野真理子教授が南シナ海の領有権問題を例に、国連海洋法条約に基づいた紛争解決のあり方について話し、記者の質問に答えた。
司会 坂東賢治 日本記者クラブ企画委員(毎日新聞)


会見リポート

南シナ海めぐる国際仲裁裁判 長期的には中国外交に影響も

津屋 尚 (NHK解説委員)

“海の憲法”とも呼ばれる「国連海洋法条約」。この条約が紛争の平和的解決の手段の一つとしているハーグの常設仲裁裁判所では今、フィリピンが南シナ海で対立する中国を提訴した裁判の行方に注目が集まっている。しかし、条約の規定や裁判のしくみは非常に複雑で、どんな判決が出る可能性があり、その結果、南シナ海の紛争にどう影響を与えるのか、われわれ素人にはわかりにくい世界だ。

 

国際法学者の河野真理子氏は、国連憲章や国連海洋法条約の具体的な条項にも言及しながら、国際裁判を通じた紛争解決の意義と課題について縷々解説した。

 

判決を予測するのは難しいが、フィリピンが申し立てている論点のうち、▽中国が主張する九段線の内側の「歴史的権利」には何ら法的根拠はない、▽スビ礁やミスチーフ礁などは低潮高地や岩でしかなくEEZの根拠にはならない、などについては、何らかの判断が示されるだろうと予測した。

 

ただ“海の憲法”も完璧ではない。出される判決は法的には拘束力を持つが、当事国にその履行を強制できる執行機関は存在しない。つまり、履行するかどうかは当事国まかせになってしまう。中国は早々から裁判は無効だとし、判決には従わないと表明している。

 

河野氏はそれでも仲裁裁判の意義はあるとする。国際社会は「名誉」が重視される世界。国際法に基づき出された判決に従わないとなれば国際社会において「不名誉」な状態となる。ニカラグアとの訴訟に敗れたレーガン政権を例示し、即効性はなくても長い目で見れば、中国指導部の外交政策の意思決定に何らかの影響を与えることは考えられると指摘した。そうだとすれば、東シナ海で中国と対峙する日本としても、法の支配の重要性を訴え続ける価値はありそうだ。


ゲスト / Guest

  • 河野真理子 / Mariko Kawano

    日本 / Japan

    早稲田大学法学学術院教授 / Professor, School of law, Waseda University

研究テーマ:南シナ海の領有権問題

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