2016年05月17日 13:30 〜 15:00 9階会見場
カリン・フォン・ヒッペル 英国王立防衛安全保障研究所(RUSI)所長

会見メモ

英王立防衛安全保障研究所(RUSI)のカリン・フォン・ヒッペル所長らが11月に東京で開催する日英安全保障会議の概要や安全保障分野での日英協力の展望について話し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)
左から、秋元文明RUSI Japan所長、ジョナサン・イヤル国際戦略部長、ヒッペル所長


会見リポート

日英の戦略的対話の重要性

山口 雅史 (NHK報道局国際部)

国際社会における安全保障環境を大きく変えようとしている中国とロシア。それぞれ、南シナ海、ウクライナに関して、一方的な現状変更を進めている。今年11月に開催される日英安全保障会議を前に来日したイギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)のカリン・フォン・ヒッペル所長、ジョナサン・イヤル国際戦略部長の両氏が、安全保障分野での日英協力の可能性について会見するということで、普段、南シナ海を中心としたASEAN地域における安全保障を担当している私は、イギリスをはじめとした欧州圏では、南シナ海の現状をどのように捉えているのかという興味から会見に参加した。

 

南シナ海の現状を巡っては、中国が歴史的にほぼ全域の管轄権を有すると主張し、南沙諸島を中心に、大規模な人工島の造成を進めている。これに対してフィリピンはオランダのハーグにある仲裁裁判所への申し立てを行っているほか、日本も今年4月に、フィリピンやベトナムに海上自衛隊の護衛艦を相次いで寄航させるなど、中国を念頭に置いた関係強化を進めている。さらに、アメリカは、去年から「航行の自由作戦」を発動し、中国の人工島から12海里内の海域にイージス艦を航行させるなど、中国へのけん制を強めている。

 

こうした中、私個人としては、地理的な距離感のほか、経済面で中国との関わりを深めようとしているイギリスの南シナ海への関与は限定的にならざるを得ないのではないかと感じていたが、ヒッペル氏は「イギリス政府の代弁をするわけではないが、キャメロン首相は『英中関係は経済、日英関係は安全保障』と表明している。人権問題と南シナ海の問題は、日英米ともに共通の懸念だ」とした。

 

さらに、イヤル氏は「まるで鏡に映ったようだが、日本はロシアに対して楽観的、イギリスは中国に対して楽観的と言われる。これはどちらも正しい」と、実際に双方の認識には、まだ差があると指摘した。

 

その上で「インテリジェンスで、戦略的な対話が東京とロンドンの間で行われ、安全保障の感覚を調整する必要があり、具体的な行動を伴うスタートを切る必要がある」と指摘した。

 

このほか、会見で「第一次世界大戦と第二次世界大戦の戦間期にも匹敵する不安定な状況(イヤル氏)」などとするロシアへの危機感が会見で繰り返し強調されたことが印象的だった。両氏の話しぶりの中に、イギリスの安全保障のプロフェッショナルが持つロシアへの危機感を「肌感覚」として触れたように感じた。一方的に現状変更を進める中国とロシアに対し協調して向かい合っていくためには、日本の中国に対する危機感を理解してもらうだけでなく、欧州のロシアに対する危機感を「肌感覚」として共有し、双方がどのように、それぞれの事態に関わっていくかが、どれほど重要かをあらためて認識させられる機会となった。


ゲスト / Guest

  • カリン・フォン・ヒッペル / Karin von Hippel

    イギリス / UK

    王立防衛安全保障研究所(RUSI)所長 / Director-General of the Royal United Services Institute (RUSI)

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