2016年04月18日 16:00 〜 17:15 10階ホール
「変わるアメリカ 変わらないアメリカ 米大統領選」⑤春名幹男 早稲田大学大学院客員教授

会見メモ

近著に『仮面の日米同盟 米外交機密文書が開かす真実』がある春名幹男氏が、大統領選と日米同盟をテーマに話し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

アメリカは当てにできるのか 日米思惑のズレを語る

杉田 弘毅 (企画委員 共同通信社編集委員室長)

予備選段階からこれほど日米関係が話題となる米大統領選も珍しい。共和党のドナルド・トランプ氏が「安保ただ乗り」を理由に、日韓からの駐留米軍撤退論を口にした。内向きの米国に日本を守る気持ちはあるのか。そんな不信感が募る。

 

膨大な公文書の解析や米政府高官の発言をフォローする春名幹男氏を米大統領選の研究会シリーズに呼んだ。1時間半の研究会を終え、米国は当てにできるのか、の疑念は深まる一方だ。

 

オバマ米大統領が日米安全保障条約5条の適用対象と明言した尖閣諸島にしても、かつての米政府高官の発言、そして現在の米メディアに掲載される論評記事を、春名氏は詳細に説明、中国との戦争に「巻き込まれること」への米国の警戒、反発は強い。

 

在日米軍の存在目的についても、駐日大使も務めたアレクシス・ジョンソン元国務長官代行は「日本本土防衛のためではなく、韓国、台湾、東南アジアの戦略的防衛のために駐留している」と語っている。こうした米側の意図は、「日本が外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流す」という安倍晋三首相の発言とはだいぶ違う。

 

日本側の説明は国民の受けが良いように実態と微妙にずれている。この点になると、長年の取材からくる確信だろうか、その口調は熱を帯びてきた。

 

たとえば、米軍普天間飛行場の返還問題。橋本龍太郎首相がクリントン大統領との1996年の首脳会談で持ち出した手柄とされているが、95年の少女レイプ事件の際に既に米政府は部内会議で普天間返還の検討を始めていたという。

 

ラムズフェルド元国防長官が普天間を視察して、住宅密集地に存在する基地の危険性を強く問題提起したとされる点も、ラムズフェルド氏が普天間の危険性を指摘したのは「テロの標的となる」ためで、軍用機の住宅への墜落事故の可能性ではなかったと明らかにした。

 

日米防衛協力のための指針で、自衛隊が日本防衛の主たる責任を持つという規定を、日本語訳が十分に指摘していない点などは、「スキャンダルだ」と批判した。

 

話題は2016年大統領選に移り、その見立てはヒラリー・クリントンの勝利という常識的なものだった。しかし、クリントンが国務長官時代に日本政府に怒った様子や、金融大手からの献金問題、そしてトランプと勝負した日本人ギャンブラーの話など、「ハルナワールド」が予定時間を超えて展開した。ユーモアを交え、時に語気鋭く。

 

「日米交渉では日本は米国に誠意を示し、米国を崇めもする。しかし米政府は誠意を見せない」。長年米国を取材してきた春名氏の言葉だ。

 

さて、米国は日本から撤退するのか。「在日米軍基地は対中戦略上重要だから撤退しない。日本を守るか守らないか、ではない。『日本から嫌われたら撤退する』と彼らが言うのは脅し。そういう米国の意図を読んだ上で、交渉しないと」。この辺も鋭く記憶に残る言葉だ。


ゲスト / Guest

  • 春名幹男 / Mikio Haruna

    日本 / Japan

    早稲田大学大学院客員教授 / , Visiting Professor, Graduate School, Waseda University

研究テーマ:変わるアメリカ 変わらないアメリカ 米大統領選

研究会回数:5

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