2016年04月04日 17:00 〜 18:30 10階ホール
「変わるアメリカ 変わらないアメリカ 米大統領選」④ 渡辺将人 北海道大学大学院准教授

会見メモ

ヒラリー・クリントン陣営の上院議員選対、アル・ゴア陣営の大統領選対で働いた経験がある渡辺将人氏が今年の大統領選を分析し、記者の質問に答えた。
司会 杉田弘毅 日本記者クラブ委員(共同通信)


会見リポート

「玉」は良いが「風」が吹かない

NHK解説委員 (出石 直)

今回の米大統領選挙の最大の“想定外”は、トランプ旋風と本命のはずだったヒラリー・クリントン候補の苦戦だろう。ヒラリー・クリントン氏の上院議員選挙の陣営で選挙スタッフとして働いた現場経験と豊富な知識を駆使して、予想外の展開となった米大統領選挙の構図をわかりやすく解き明かしてくれた。

 

人権派弁護士、ファーストレディー、連邦上院議員、国務長官と“ジョージ・ワシントン以来”と言われるほど華やかな実績と経験がありながら、なぜ苦戦しているのか。大統領選を勝ち抜くための3つの要素、「玉」=候補者、「風」=政治経済外交情勢、「技」=キャンペーンのうち、クリントン候補に欠けているのは「風」だという。

 

初のアフリカ系大統領が誕生した時ほどには初の女性大統領への期待感は盛り上がっていない。内向きな外交の趨勢はクリントン候補が得意とする人権外交を受け入れず、イラク戦争に賛成した過去は党内のリベラル派からの反発を招いた。オバマ大統領のレガシーから距離を置けば支持を失うし、引き継げば独自性を打ち出せない。「風」が吹かない中でクリントン陣営はいまだにキャンペーンの柱を確立できないでいる。

 

今回の予備選の大きな特徴は、これまで予備選に無関心だった無党派層が多数参加している点にある。新規参入層の支持は、共和党ではトランプ候補に、民主党ではサンダース候補に寄せられた。異例の展開の背景には、ビル・クリントン元大統領に代表される穏健派「ニュー・デモクラット」の縮小と「新たな中道リベラル」の台頭がある、と指摘する。「新たな中道リベラル」には、①サンダース候補の支持者に代表される「アウトサイダーな左派勢力」、②労働組合や環境団体などに代表される「リベラル派のエスタブリッシュメント」、③ロビイストやニュー・デモクラットなどの「企業系の民主党支持者」の3つの流れがあり、クリントン候補はオバマ大統領やサンダース候補との違いを示しながらも、すべての勢力から支持を得ねばならない。

 

これからの選挙戦の鍵を握っているのは、ウォール街占拠運動を主導しTPP反対派の急先鋒であるエリザベス・ウォーレン上院議員。特別代議員のほとんどがクリントン支持を打ち出している中で、ウォーレン議員はまだ支持表明をしていない。議員の動向次第ではサンダース候補を支持している人達がトランプ支持に回る可能性もあるという。

 

「誰が勝つか」だけではなく「どう勝つか」にも注目していく必要がありそうだ。


ゲスト / Guest

  • 渡辺将人 / Masahito Watanabe

    日本 / Japan

    北海道大学大学院准教授 / Associate Professor, Graduate School, Hokkaido University

研究テーマ:変わるアメリカ 変わらないアメリカ 米大統領選

研究会回数:4

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