2016年04月06日 13:00 〜 14:00 10階ホール
「どうみるマイナス金利」②金融史からみたマイナス金利 伊藤正直 東京大学大学院名誉教授、大妻女子大学教授

会見メモ

金融史、経済史に詳しい伊藤教授が、金融政策史の観点からマイナス金利を解説し、記者の質問に答えた。
司会 軽部謙介 日本記者クラブ企画委員(時事通信)


会見リポート

歴史が示す量的緩和の副作用

花谷 美枝 (毎日新聞出版 週刊エコノミスト編集部記者)

量的・質的緩和に加えてマイナス金利政策を導入した黒田日銀。だがこれまでのところ「2年で2%」の物価目標は達成できず、国債買い入れ額だけが積みあがっている。金融史を研究する伊藤正直教授は、量的・質的緩和を「マネタリーベースを増やせば期待インフレ率が上がるという大前提には根拠がなく、現実的にもそのように推移していない」と切り捨て、さらに財政インフレの可能性を示唆した。

 

会見では中央銀行の金融政策の歴史を駆け足で振り返った。第二次世界大戦後、中央銀行は通貨価値の安定から完全雇用の達成、経常収支の均衡まで、その時々に応じた政策目標を設定してきた。だが1980年代以降、中央銀行は通貨価値と物価の安定を単一の目標に政策運営すべきということが先進国で共通の考え方になったという。その流れが変わったのが2008年のリーマン・ショック以降だ。「日米欧の中央銀行が物価の上昇を通じて景気回復を目指す異常な事態にある」と伊藤教授は指摘する。

 

黒田緩和について語る際に引き合いに出されることの多い、高橋是清財政についても言及した。1930年ごろからの昭和恐慌の後、31年12月に大蔵大臣に就任した高橋是清は、日銀が国債を直接引き受けることで、政府の積極的な財政政策を可能にした。高橋財政についての評価はさまざまで、現在も議論が続いている。伊藤教授は日銀の国債直接引き受けが終戦直後に強烈なインフレを招く原因になったと指摘した。物価水準は戦前の200倍に上ったという。

 

高橋財政による国債直接引き受けの開始から破局的なインフレまでは10年以上の期間があった。だが、黒田緩和についてはかなり早い時期に危機的な状態が起きてもおかしくないとして、「早めに出口政策を考えるべき」と会見を結んだ。金融政策の歴史は、政策の副作用にも目を向ける必要性があることを示していると強く感じた。


ゲスト / Guest

  • 伊藤正直 / Masanao Itoh

    日本 / Japan

    東京大学大学院名誉教授、大妻女子大学教授 / Professor, Otsuma Women’s University / Emeritus Professor, Tokyo University

研究テーマ:どうみるマイナス金利

研究会回数:2

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